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第1章*とんでもない専属メイド初日

10・魔法使い+ヤンデレ

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 アステロッド・フェン・クリムナフ。
 魔法という不可思議なものが存在するこの世界の中でも、かなり異質なレベルで強い力を持つ魔法使い。
 本来のゲームでもアステロッドは主人公ルーナの幼なじみであり、第3王子のメイドとなったルーナと城の中で再会を果たす。
 いわゆるヤンデレ枠でもあり、バッドエンド及びデッドエンドを多数抱える問題キャラ。
 彼の食えない性格は、前世で画面を通して見ていた時と何も変わらない。


  ****


 アステロッドに連れてこられたのは、中庭の片隅に建てられている温室だった。

「で? なんの用なのよ、アステロッド」

「そんなに嫌そうな顔をしないでよ」

(嫌だから嫌そうな顔をして何が悪いのよ!)

 正直言って、専属としての仕事もあるから、早く晩餐会会場に戻りたい。
 あんな、王子のハーレム状態の大広間でも、この魔法使いと二人きりでいるより余程マシだ。
 さっさと用件を話せと促すと、アステロッドは不満そうにため息をついた。

「どうして君はそんなにつれないんだい……? 十年ぶりの感動の再会じゃないか」

「私は会いたくなかったんだけど?」

 まったく。これっぽっちも。
 会いたくなさすぎて、幼なじみがいたことを記憶から抹消するレベルだ。
 
「ところで、なんでそんなに俺と距離をとっているのかな……?」

 ルーナとアステロッドの間に広がる距離、およそ3メートル。
 話をするには向かない距離だ。
 ルーナはばっさりと本音を口にした。

「あんたに近づきたくないからよ」

「そんな……。俺、傷つくよ……?」

 わざとらしく、アステロッドが濃紫の瞳を潤ませた。
 実にわざとらしい……。
 ルーナが警戒してさらに一歩下がろうとすると、足に何かが巻きついてルーナの動きを止めた。

(い、嫌な予感……)

 肌に巻き付く、ひんやりとした感触。覚えがある。
 これは……。
 ちらりと足元に視線を下げれば、ちろりと赤い舌を出した白蛇と目が合った。

「……っひ」

(無理無理無理、やっぱ蛇無理……!)

 幼い頃に植え付けられたトラウマだ。
 アステロッドに散々蛇を使っていじめられたおかげで、ルーナはどうしても蛇が苦手だった。
 あまりの恐怖に身体が動かない。

「俺は、こんなにもルーナに会いたかったって言うのに……」

 アステロッドがゆっくりと距離を縮めてくる。
 今すぐ走って逃げ出したい。それなのに、足に巻き付く蛇のおかげで身体が動かない。
 ルーナは悔しくて歯噛みした。

「く……っアステロッド、卑怯よ!」

「え、今更だなぁ。俺が卑怯なことぐらい、君はとっくに知ってるでしょ?」

(確かに!)

 知っている。 
 ゲームでも、この世界で現実としてでも。

「俺は卑怯者だから、君が動けない状態じゃないと近寄れないんだよ」

 ルーナの目の前までやってきたアステロッドは、パチンと指を鳴らした。
 その瞬間、ルーナの腕に何かが巻きついてくる。
 何か、なんて。そんなの決まっている。
 蛇だ。

「き、きゃああああっ!」

(こいつ、ほんとに最低!!)

 両腕に巻きついた蛇が、ルーナの両腕を勝手に動かしてくる。

「ちょ、どうなってるの!?」
 
 ルーナの身体は、勝手に磔のような状態になってしまう。 
 その体勢のまま、巻きついた蛇がぴしっと氷のように固まった。

(ちょっ、まずい……動けない……!)

「あんた、何がしたいのよ!」

 唯一自由な口で精一杯の虚勢を張る。
 本当は蛇に対する恐怖で一杯だ。

「何って……。君、第3王子の専属に、なったんでしょ?」

「それがなんなのよ……!」

 だったらなんだというのか。
 そもそも本来、ゲームでのアステロッドはここまで主人公に執着していなかった。
 専属メイドになったことを、再会一番に咎められるイベントなど覚えがない。
 
「王子のお手つきにされてないか、心配しているんだよ」

「な……っ」

 アステロッドの口から出たとんでもない単語に、ルーナは目を見開いた。
 何を言っているのだろう、この男は。
 心配? 人の体に蛇を巻き付けておいてどの口が言うのだ。

(むしろアステロッドの頭の方が心配だわ)

「俺のルーナを踏み荒らされていないか確認しないと、俺の気が済まない」

 アステロッドはそう言うと、ルーナの頬を指を伸ばした。
 
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