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第1章*とんでもない専属メイド初日
9・宿敵登場
しおりを挟む「え、っと……?」
(だれ……?)
この青年、身なりがかなり良いが、とにかく怪しい。
何が怪しいって、雰囲気が。何となく。
(でも、この胡散臭い雰囲気……、どこかで覚えが……)
「なーんちゃって。そんなに困った顔をしないでおくれよ。ルーナ・ディローザ嬢?」
「!?」
名乗っていないはずなのにさらりと名前を言い当てられて、ルーナは青年をまじまじと見返した。
(ほんとにあんた誰よ!?)
「……ふーむ……。こうすれば分かるか?」
青年はルーナにしか見えないように、体の向きを変えた。
ぱちんと指を鳴らす。
すると、彼の顔立ちが一瞬で変化していった。
サラサラとした銀の髪、暗く濁った紫の瞳。
穏やかそうな青年の雰囲気が、ミステリアスで人を小馬鹿にした雰囲気に。
「あ、あんたは!」
ルーナは、近くにいるマクミリアンに聞こえないように気をつけながら叫んだ。
ここであったが100年目!!
ルーナの宿敵の幼なじみ、アステロッド・フェン・クリムナフ。
幼なじみではあるが、アステロッドは幼い頃に類まれなる魔法の才を買われて、城に連れていかれた。王族付きの魔法使いとして、特別な教育を施されるために。
そんなわけで、ルーナは彼の存在をすっかり忘れていた。
(最悪!)
あまりにも幼い頃に別れたため、すっかり忘れていたが、この男もゲームの攻略対象なのだ。
ゲームでは、王国付きの魔法使いとして彼と再会する。しかし、そのイベントの発生はまだ先のはず。
(なんで、今……?)
疑問を感じながらも、ルーナはアステロッドを睨みあげた。
当のアステロッド本人は、へらへらと笑っている。
ルーナは無性に腹が立つのを感じた。
「やぁルーナ、久しぶり。俺の事、覚えている?」
「覚えているも何も!」
(忘れるわけがない!)
もう十年と会っていなかったが、アステロッドの底意地の悪そうな人相は幼い頃から変わらない。
この男は、幼いルーナにいじめ同然の意地悪をしてばかりだった。
出会い頭に蛇を投げつけてきたり、魔法で落とし穴を作ってルーナを落として嘲笑ったり、その他諸々。諸々諸々!
(こいつだけは許せない!)
きっと睨みつけるルーナに、アステロッドは楽しそうに笑った。
「君は昔から変わらないなぁ! からかいがいがある」
「く……っ」
親しげに肩を抱いてくるアステロッドの手を、思い切り払い落としたい。
しかし、ここは公衆の面前だ。
第3王子の専属メイドとして、恥を晒す真似は出来ない。
「まぁまぁ、ちょっと外に行こうか……?」
「く……っ」
(この野郎……今に見てろよ……!)
心の中で悪態をつきながら、アステロッドの手に引かれてルーナは晩餐会の会場を後にした。
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