50 / 52
最終章
50・一人じゃない(最終話)
しおりを挟むヴィエラが正式に皇妃となってから、一年の月日が流れた。
かつてのホワイトリー領。その小高い丘の上に墓地がある。
その日ヴィエラは、墓地の最奥に眠る両親の元を訪れていた。
寒々しい空の下、白い雪を被った墓石が整然と並んでいる。
ここは、かつてヴィエラがすべてを失った場所だった。
記憶が戻ってから久しぶりに墓地を訪れた時は、どうしても恐怖を覚えて足がすくんでしまった。だが、何度かオズウェルと共に来ることで、ヴィエラの心に残る恐怖は薄れつつある。
今日も、ヴィエラの隣にはオズウェルがいた。
ヴィエラは手に持っていた白いアネモネの花束を墓石の前に置いた。城の温室で、オズウェルとともに育てたものだ。
ヴィエラはその場にしゃがみこみ、軽く手のひらを組みあわせて祈りを捧げた。オズウェルも同じようにしてくれる。
(お父様、お母様。私はどうにか皇妃として頑張っています。不安はあるけど、オズウェルがそばにいてくれるから頑張れるわ。それに……)
しばらくして立ち上がったヴィエラに、少し後ろで見守っていたらしいオズウェルは不思議そうな顔をして尋ねた。
「もういいのか?」
「ええ」
ヴィエラは小さく微笑みを返す。
(……それに、オズウェルだけじゃなくて……。今はもう一人いるから)
墓石に背を向けて歩き出そうとしたヴィエラの腰へ、オズウェルはそっと手を回した。
「ヴィエラ、段差には気をつけてくれ。お前はもう、一人の体ではないのだから」
「ふふ、大丈夫よ。オズウェルってば心配性ね」
確かにオズウェルの言うように、ここは丘になっているせいもあって、ところどころ階段のようになっている。
だが、ゆっくり歩いている上にオズウェルが腰を支えてくれているから大丈夫だろう。
ヴィエラは自分の片手を腹部へと当てた。
そこは、ワンピースの上からでも分かるくらいには膨らんでいる。
妊娠が発覚したのは、結婚してしばらく経った頃だった。
子どもはお腹の中で順調に育っているようで、ヴィエラは安心する。
「どんな子が生まれてくるか、楽しみね。オズウェル」
「……ああ」
生まれてくる子どもは、どちらに似ているだろうか。
どんな人生を歩むだろうか。
願わくば、ただ周囲の運命に翻弄されるのではなく、諦めず立ち向かい続ける強い子になって欲しい、とヴィエラは思う。
ヴィエラはそんなオズウェルの姿に救われたのだから。
「お前は今、幸せか? 私はお前を、幸せにできているだろうか」
緩やかな丘を下りながら、不意にオズウェルが尋ねてきた。
ぽつりと呟くようなその言葉が、彼に似合わず少しの不安を孕んでいて、ヴィエラは「ふふ」と笑いをこぼした。
(そこは、自信をもってくれていいのよ?)
ヴィエラがオズウェルと一緒にいて不幸だったことなんて一度もない。
この皇帝様は、いつだってヴィエラに優しくしてくれる。守ってくれる。
オズウェルがいてくれること以上に安心できることは無い。
(あなたのおかげで、私は空っぽじゃなくなったの)
心が幸福感で満たされている。
共にいるだけでこれほどまでに満たされることを、ヴィエラはオズウェルといて初めて知った。
「ええ、私は幸せよ」
ヴィエラはオズウェルの肩にそっと身を寄せた。
168
お気に入りに追加
808
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる