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最終章

44・初夜

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「私のことが、知りたいか?」

 耳に直接吹き込まれるようにオズウェルの声が聞こえてぞくりとする。
 体に回されたオズウェルの腕が妙に熱いように感じる。そのせいか、ヴィエラの体まで熱くなってきてしまった。

「え、ええ」

「私も、お前のことをもっと知りたいと思っている。心も体も……隅々まで」

「……っ」

 緊張してしまうのは何故だろう。
 どくどくと、鼓動が早まっているのを感じる。ヴィエラはぎゅうと、オズウェルの腕を握りしめた。
  まるで、何かを期待するように。

 (私……はしたないのかしら)

 初夜が意味することも、オズウェルの熱がこもった視線の意味も、何もかもヴィエラはわかっている。それが理解できないほどの無知では無い。

 (オズウェルに触れたい。触れて欲しい、なんて)

「お前が望むなら、私のすべてをやろう。この城も、私の持つ権力も、すべてお前のものだ。だからその代わり……お前を私にくれ」

 オズウェルは愛おしそうにヴィエラの顎を指先でなぞると、やがて顔を後ろに振り向かせた。
 
「そんな……っん、んぅ……っ」

 そんなものいらないわ。
 地位も権力も、何も欲していない。 

 そう言おうとした唇を封じられて、ヴィエラは言葉が紡げなくなる。
 無理な角度で口付けられるから、余計息が上がってしまった。
 意味をなさない甘い息が鼻から漏れて、ヴィエラの頬に熱が集まっていく。

「は……ぁっ、オズウェル……っ」

 オズウェルは力が抜けたヴィエラを自分の方へ向きなおらせた。
 正面からオズウェルの青い瞳に見つめられて、もう体の中を流れる血が沸騰してしまいそうだ。それくらい、体が熱い。
 甘やかな何かが体の奥底から流れ出して、ぐるぐると体中を巡っていく。

「この部屋にお前が来た時から、ずっとこうしたかった」

「……っ」

 ストレートにオズウェルが告げてくるから、ヴィエラは思わず呼吸を止めてしまう。
 この皇帝陛下には羞恥心というものはないのだろうか。
 ヴィエラに好意を示す言葉を、恥ずかしげもなく真っ直ぐに伝えてくれる。
 ありがたいのだけれど、そう真っ直ぐに見つめないでほしいとヴィエラは思う。じっと見つめられると、目が離せなくなってしまう。

 (……だって、綺麗なんだもの)

 オズウェルの深い群青色の瞳が、熱を孕んで揺らめいている。その艶めかしさは、思わず見とれてしまうほどに美しい。

 (誰にも見せたくないわ)

「ヴィエラ……。お前を抱いてもいいか」

「オズウェ……ル」

 口の中がからからで、上手く言葉を返せない。
 どうにかヴィエラが唾を飲み込むと、一瞬の間を勘違いしたのか、オズウェルはしゅんと目元を下げた。

「嫌、か」

  オズウェルが抑揚のない声で短く呟く。
  ヴィエラは咄嗟に首を横に振った。

「い、嫌じゃないわ! そうじゃなくて……! ただ、恥ずかしくて……っ」

 嫌なわけでは無いのだ。
 ヴィエラだって、オズウェルに触れたいし、触れて欲しい。
 ヴィエラは真っ赤な顔でオズウェルを見上げた。
  オズウェルの喉がこくりと唾を飲み込んで動く。その様が、ヴィエラの瞳にはやけに色っぽく映って見えた。

「ヴィエラ」

 オズウェルに名前を呼ばれて、ヴィエラはビクリと肩を揺らす。何を言われるのかが怖かった。

「あまり私を煽るな」

  オズウェルはそう焦れたように言うと、もう一度ヴィエラの口を塞いだ。性急にキスが深められて、ヴィエラは何も言えなくなる。

「ふ……っ、んぅ……ん、ンンっ」

 すべてを飲み込むようなキスを与えられて、ヴィエラの体からはますます力が抜けていった。
 
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