【番外編追加】冷酷な氷の皇帝は空っぽ令嬢を溺愛しています~記憶を失った令嬢が幸せになるまで~

柊木ほしな

文字の大きさ
上 下
44 / 52
最終章

44・初夜

しおりを挟む

「私のことが、知りたいか?」

 耳に直接吹き込まれるようにオズウェルの声が聞こえてぞくりとする。
 体に回されたオズウェルの腕が妙に熱いように感じる。そのせいか、ヴィエラの体まで熱くなってきてしまった。

「え、ええ」

「私も、お前のことをもっと知りたいと思っている。心も体も……隅々まで」

「……っ」

 緊張してしまうのは何故だろう。
 どくどくと、鼓動が早まっているのを感じる。ヴィエラはぎゅうと、オズウェルの腕を握りしめた。
  まるで、何かを期待するように。

 (私……はしたないのかしら)

 初夜が意味することも、オズウェルの熱がこもった視線の意味も、何もかもヴィエラはわかっている。それが理解できないほどの無知では無い。

 (オズウェルに触れたい。触れて欲しい、なんて)

「お前が望むなら、私のすべてをやろう。この城も、私の持つ権力も、すべてお前のものだ。だからその代わり……お前を私にくれ」

 オズウェルは愛おしそうにヴィエラの顎を指先でなぞると、やがて顔を後ろに振り向かせた。
 
「そんな……っん、んぅ……っ」

 そんなものいらないわ。
 地位も権力も、何も欲していない。 

 そう言おうとした唇を封じられて、ヴィエラは言葉が紡げなくなる。
 無理な角度で口付けられるから、余計息が上がってしまった。
 意味をなさない甘い息が鼻から漏れて、ヴィエラの頬に熱が集まっていく。

「は……ぁっ、オズウェル……っ」

 オズウェルは力が抜けたヴィエラを自分の方へ向きなおらせた。
 正面からオズウェルの青い瞳に見つめられて、もう体の中を流れる血が沸騰してしまいそうだ。それくらい、体が熱い。
 甘やかな何かが体の奥底から流れ出して、ぐるぐると体中を巡っていく。

「この部屋にお前が来た時から、ずっとこうしたかった」

「……っ」

 ストレートにオズウェルが告げてくるから、ヴィエラは思わず呼吸を止めてしまう。
 この皇帝陛下には羞恥心というものはないのだろうか。
 ヴィエラに好意を示す言葉を、恥ずかしげもなく真っ直ぐに伝えてくれる。
 ありがたいのだけれど、そう真っ直ぐに見つめないでほしいとヴィエラは思う。じっと見つめられると、目が離せなくなってしまう。

 (……だって、綺麗なんだもの)

 オズウェルの深い群青色の瞳が、熱を孕んで揺らめいている。その艶めかしさは、思わず見とれてしまうほどに美しい。

 (誰にも見せたくないわ)

「ヴィエラ……。お前を抱いてもいいか」

「オズウェ……ル」

 口の中がからからで、上手く言葉を返せない。
 どうにかヴィエラが唾を飲み込むと、一瞬の間を勘違いしたのか、オズウェルはしゅんと目元を下げた。

「嫌、か」

  オズウェルが抑揚のない声で短く呟く。
  ヴィエラは咄嗟に首を横に振った。

「い、嫌じゃないわ! そうじゃなくて……! ただ、恥ずかしくて……っ」

 嫌なわけでは無いのだ。
 ヴィエラだって、オズウェルに触れたいし、触れて欲しい。
 ヴィエラは真っ赤な顔でオズウェルを見上げた。
  オズウェルの喉がこくりと唾を飲み込んで動く。その様が、ヴィエラの瞳にはやけに色っぽく映って見えた。

「ヴィエラ」

 オズウェルに名前を呼ばれて、ヴィエラはビクリと肩を揺らす。何を言われるのかが怖かった。

「あまり私を煽るな」

  オズウェルはそう焦れたように言うと、もう一度ヴィエラの口を塞いだ。性急にキスが深められて、ヴィエラは何も言えなくなる。

「ふ……っ、んぅ……ん、ンンっ」

 すべてを飲み込むようなキスを与えられて、ヴィエラの体からはますます力が抜けていった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿で両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

【完結済】姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。 十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。 そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり────── ※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。 ※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...