【番外編追加】冷酷な氷の皇帝は空っぽ令嬢を溺愛しています~記憶を失った令嬢が幸せになるまで~

柊木ほしな

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最終章

43・同じ部屋

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「はぁ……」

 どうにか式が終わった後は、国民へ向けての披露として城下町中を馬車で回り……。その後は貴族たちを招待しての披露宴が行われた。
 ようやく全ての行事から開放されたヴィエラは、自室に戻った途端、ぐったりとソファに崩れ落ちた。

(疲れた……)

 疲れすぎていたせいか、正直夕食を味わう気力もなかった。もう寝てしまいたい。
 ぐったりとした様子のヴィエラを見て、部屋まで送ってくれたセリーンがくすくすと笑う。

「ヴィエラ様、お疲れにはまだ早いですよ」

「?」

 セリーンの言葉にヴィエラは小首を傾げる。
 まだ何かしなくてはならないことがあっただろうか。
 不思議そうなヴィエラに向かって、セリーンはにっこりと微笑んだ。

「本日最後のお仕事が残っております」

 そう言ってセリーンは、後ろ手に持っていたものを見せてくる。
 目の前に出されたものに、ヴィエラは一瞬で顔を真っ赤に染めた。
 
「えっ、ちょっと、セリーン……!?」

 下着だ。
 それも、恐ろしく透け透けの。
 生地がすべてレースでできているせいで、網目の隙間から反対側が見える。

(まさか、これを着ろっていうの!?)

「さ、お風呂に参りましょうね、ヴィエラ様。オズウェル様がお待ちです」

「せ、セリーン!」

 そうしてヴィエラは、セリーンによって浴室へ連れていかれた。


 ◇◇◇◇◇◇


(ど、どうしよう……)

 ヴィエラはオズウェルの部屋の前で、一人立ち尽くしていた。

(どうしたら……いいの……)

 どうしたらいいのと考えても、結論から言えばヴィエラがとれる選択は一つだけ。
 この部屋の扉をノックすることだけだ。
 自分の部屋に戻ることは、皇妃となる立場から許されない。

 (でも、この格好じゃさすがに恥ずかしいわ……)

 あのあと、セリーンに身体を隅々まで洗われて、断る間もなくあの下着を身につけさせられた。
 その上に着ているネグリジェはいつものものと同じではある。だが、中につけているのが総レースの下着だと意識してしまって、オズウェルに会いに行くのは躊躇われた。
 
 (これってやっぱりそういうことよね……?)

 完全に、初夜を意識して準備されたものであることは、ヴィエラの目にも明らかだった。
 正式にこの国の皇妃となる以上、世継ぎは必ず必要となる。皇帝陛下の夜の相手をすることは、皇妃としての大切な仕事の一つだ。

(それに、もう……私はあの部屋には戻れないのよね)
 
 ヴィエラが部屋を出る前、セリーンは言った。
 今日からヴィエラの部屋はここでは無い。今日からはオズウェルと同室で暮らすのだ、と。

 確かにここに来たばかりの頃、セリーンに似たようなことを言われたのをヴィエラは覚えていた。

(今日からはもう、オズウェルと同じ部屋で暮らさなくてはならないのよ)

 もう、式を上げてしまった。 
 これでもう、名実ともにヴィエラはオズウェルの妻となったのだ。後戻りは出来ない。

(だけど……怖い……)

 オズウェルが怖い、のではない。
 今日この夜が来るまでに、オズウェルには数え切れないほど触れられてきた。
 だけれど、オズウェルはいつも最後まではしてくれない。ヴィエラを乱すだけ乱して、甘やかすだけ甘やかして、名残惜しそうに手を離す。

 ルーンセルンでは、婚前に男女が深い繋がりを持つことは良くないこととされている。
 だからオズウェルが今まで途中でやめてしまっていたのだと、分かっている。
 オズウェルが自分のことを大切に思ってくれていることを、ヴィエラは分かっている。

 それでも考えてしまうのだ。
 自分の体に魅力がないから、オズウェルはいつも最後までしてくれないのではないか、と。

 (もし、今夜を共にして……。それでも最後までされなかったらどうしよう……)
 
 ヴィエラが部屋の前でぐるぐると思い悩んでいると、部屋の扉が静かに開けられた。
 
「何をしている」

「……オズウェルっ」

 現れたオズウェルの姿に、ヴィエラはどきりとしてしまう。
 オズウェルの長い銀髪からは水がしたたり、部屋の明かりを反射して煌めいていた。

「ええと、あの……っ」

 あまりにも色っぽいオズウェルに、ヴィエラは狼狽えてしまう。
 オズウェルは不思議そうな顔をしてヴィエラを見つめた。

「どうした、入らないのか? 今日からこの部屋で眠るのだろう」

「え、ええ」

 ヴィエラはオズウェルに促されるまま部屋に入った。
 よく見れば、オズウェルはトラウザーズにワイシャツ一枚という簡素な格好をしている。
 風呂上がりだろうか。

「好きに寛いでくれ。ここはお前の部屋にもなる」

「そうね……」

 と言われても、ヴィエラはどうしたらいいか分からない。
 オズウェルを直視するのは気恥ずかしくて、ヴィエラは気持ちを誤魔化すように部屋の中を見回した。
 オズウェルの部屋は、思っていた以上にシンプルな内装だった。無駄なものがなく、洗練されている。
 だが、壁一面が本棚になっていることに気づき、ヴィエラは歓声を上げた。
 
「わぁ……っ、凄い! オズウェル、本が好きなの?」

「ああ」

 ヴィエラは思わず本棚に駆け寄った。棚にはぎっしりと隙間なく本が収められている。
 この城に来てからそれなりに時間が経つが、オズウェルの部屋に入ったのはこれが初めてだった。
 そしてこれから先、ずっとここで寝室をともにすることになる。

(……オズウェルのことを一つ知ることが出来て嬉しいわ)

「私、意外とあなたのこと知らないのね」

 幼い頃は、オズウェルが屋敷に訪れる度に色々な話をした。好きなお菓子や花の名前、楽しかったこと。
 かつてのオズウェルについては知っている。だが、今のオズウェルについてはまだ知らないことがたくさんある。
 
「もっと、オズウェルのことを知りたいわ」

  もっと、もっと。
  夫になるこの人のことを知りたいと、ヴィエラは強く思う。
 皇帝陛下を影で支え、心を守る皇妃として。

 ヴィエラが振り向いてそう言った直後、
 
「ヴィエラ」

「え……っきゃっ!」

 いつの間にやら近づいてきていたオズウェルによって、背後から強く抱きしめられた。
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