【番外編追加】冷酷な氷の皇帝は空っぽ令嬢を溺愛しています~記憶を失った令嬢が幸せになるまで~

柊木ほしな

文字の大きさ
34 / 52
第4章

34・薬

しおりを挟む

 ヴィエラの記憶が戻ってから二日後。
 次第に体調も回復してきて、普段通りに生活できるようになったヴィエラは、オズウェル、セリーンとともに宮廷医師のもとを訪れていた。

「ヴィエラ様が飲まされた薬は、一般的に流通しているものではなく、やはり特殊に調合されたものでした。使われている材料から推察して真似たものを作りましたが、使用した実験体は飲んだ直後に昏睡、昏倒、意識混濁、中には死亡する個体まで……。恐ろしい薬物です」

 (……ええと。たしかに恐ろしいんだけど、一体で実験したんだろう)

 宮廷医師は「ああ、恐ろしい」と震えてみせる。
 彼の言葉の意味を深く考えていたら余計怖くなるような気がして、ヴィエラは意識的に思考を逸らすことにした。

「しかもこれ、15年前の集団貴族昏倒事件に使われたものと成分が同じです」

「……なるほどな。これがロレーヌから出てきたということは……」

「……おそらくそういうことだと。かなり特殊な材料でつくられていましたので、その線が濃厚かと思われます」
 
 (15年前の事件?)

 オズウェルと宮廷医師はなにやら話し込んでしまった。ヴィエラには一体なんの話をしているのか分からずに首を傾げる。
 二人が神妙な顔をして黙ったのを見て、ヴィエラは聞いてもいいだろうかと躊躇いがちに口を開いた。

「あ、あの、私この薬と多分同じものをレミリア様に過去に飲まされたことがあって……」

「……おお……。いろいろと決定的ですね……」
 
 ヴィエラの言葉に、宮廷医師は思わず苦い表情を浮かべて乾いた笑いを漏らしている。
 ヴィエラはその反応に多少戸惑いつつも続けた。

「私が昔記憶をなくしたのも、この薬のせいだったりします……?」

 先ほど宮廷医師が並べあげたこの薬の作用の中には記憶喪失はなかった。
 結局自分はどうして忘れていたのだろうと、ヴィエラは疑問に思ったのだ。
 ヴィエラの質問に、宮廷医師は少し考え込んでいるようだった。

「そうですね……。資料によると、過去の事件では一時的に記憶を失ったものもいるようですので、否定は出来ないかと。ですが、ここまで長期で思い出せなかったのは、お話を聞く限り、ヴィエラ様自身が心を守るために自己防衛されていた面もあるのではないですかね」

 当時の出来事を考えれば、心を守るために思い出さないようにしたというのは納得ができるものだった。 
 事故で亡くなったと思っていた両親が実は殺されていて、その主犯が知り合いの貴族で、挙句薬を飲まされて異国へ捨てられるなど、簡単に受け止められるような出来事ではない。
 
 (もしかしたら、薬の味や匂いで思い出したのかもしれないわ)

「今回症状が軽い方だったのは救いでしたね」

「……一つ質問していいか」

 しばらく黙っていたオズウェルが、宮廷医師に静かに尋ねた。
 
「はい、なんでしょう」

「ヴィエラが過去飲まされた時と今回で、症状が微妙に異なるのはなぜだ?」

「個人差やその時の体調にもよるかとは思いますが、量も影響しているかと。完全に解明できている訳ではありませんので、断言は出来ませんが……」

 (なるほど。たしかに以前と今回では状況がまったく違うわ)

 一度目は、原液そのままを幼い体に大量に飲まされた。
 今回は紅茶に溶かされたものをほんの一口。

 だがそのほんの一口で三日間も昏睡するとは……。
 解毒薬を飲ませてもらってこれだと考えると、恐ろしくてたまらなくなる。
 
 (やっぱりこの薬は危険だわ)

 薬だけでなく、この薬を作ったと思われるロレーヌ家も同じように危険だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 医務室を出て、ヴィエラは扉の前ではぁとため息を吐き出した。
 ヴィエラの様子に気づいたオズウェルが、顔をのぞきこんでくる。

「どうした。疲れたか」

「あ、ううん! 大丈夫!」

 これ以上、オズウェルに心配をかけたくない。
 ヴィエラは慌てて首を横に振って笑顔を作った。

 ヴィエラの作り笑顔に気づいたのか、オズウェルは顎に手を当てて少し考える素振りを見せた。
 
「……お前さえよかったら、今から気晴らしに出かけないか」

 思ってもみなかったオズウェルの誘いに、ヴィエラは薄紫の瞳をぱちぱちと瞬かせてしまう。
 確かにまだ日が高い時間ではあるから、外出しても問題はないだろう。
 だが、ヴィエラが一番気になったのはそこではなかった。

 (それって城の外ってこと?)

 ヴィエラがルーンセルンの城で暮らすようになってから一ヶ月と少し。
 城の中庭や温室には立ち寄ったが、完全に城から出たことはまだない。
 
「それはうれしいけれど……どこへいくの?」

 内心ワクワクしながら尋ねるヴィエラに、オズウェルは安堵したようだった。
 
「……ホワイトリーの屋敷へいこう」
 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

いい加減こっち見ろよ!〜見た目だけだとフラれ続ける私は、どうやら幼馴染の執着愛に気づいていなかったようです。〜

こころ ゆい
恋愛
保育士の八重と外科医の一生は、小学生の頃からの幼馴染。 傍から見れば、儚く清楚に見えるらしい八重は、実は外見にそぐわぬ性格をしていた。 そのせいで、見た目につられて告白してくる男性たちは、ことごとく彼女の中身を知って離れていく。 フラれる度に、やけ食いややけ酒に付き合ってもらっている一生は優しいが、懲りずに同じような恋愛を繰り返す八重に呆れている....と思っていたら? 「....八重の可愛さは、そんなもんじゃないんです。....誰も気付かなくていい。俺だけが知ってればいい」 ーーどうやら、かなり愛されていたようです? ※じれじれ・執着・溺愛 ラブストーリー。🌱 ※この物語は、全て作者の想像で描かれたフィクションです。実際の場所・建物・人物とは関係ありません。🌱

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...