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第2章

19・口付け

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「オズウェル……?」

 縋るようにオズウェルが抱きしめてくるから、ヴィエラは戸惑ってしまう。
 体に回るオズウェルの腕は太くて逞しい。同じ人間であるはずなのに、何をとってもヴィエラのものとは異なる。

 (男の人なんだわ)
 
  今更ながらに、男性と夜の部屋の中に二人きりだということを意識してしまって、ヴィエラはかっと頬が熱くなるのを感じた。

「私は、ずっとお前を欲していたんだ。それなのに、そんな可愛いことを言われたら……また自制が効かなくなる」

「オズウェル……」

(どうして、こんなに想ってくれるの?)

 今のヴィエラとしては、過去の自分がそれほどまでにオズウェルに想われていたことが羨ましくてならない。

「私は、あなたの求めるヴィエラじゃないのよ……? まだ思い出せないけど――」
 
「何を言っている。前にも言っただろう。私はお前がお前であればいいんだ」

「でも……」

 不安でさらに言葉をいい募ろうとしたヴィエラの唇を、オズウェルは人差し指で押さえて止めた。
 ヴィエラは驚いてオズウェルを見上げる。
 目の前にあるオズウェルの瞳の奥には、慈愛の色がみてとれた。オズウェルは表情が豊かな方では無いのだが、視線が優しい。

「私に健気に差し入れを持ってきてくれるお前が好きだ。アネモネの花一輪に喜ぶお前が好きだ」

「……っ」

 オズウェルの口から語られるそれは、過去のヴィエラのものではなく今のヴィエラの姿で。ヴィエラは思わず息を飲んだ。
 
「確かに、きっかけは過去のお前だろう。私の心を溶かしたのは過去のお前だ。だが私は、今のお前も同じように愛している」

「……オズ、ウェル」

 (この人は、今の私を見てくれているんだ)

 過去のヴィエラがオズウェルとどのように交流していたのか、今のヴィエラには分からない。
 だけれど、今はもうそれでいいとヴィエラはようやく思えた。

 (過去の私がどうあれ、今の私がオズウェルのことが好きで、オズウェルも私のことを好いてくれているなら、それでいいじゃない)
 
「……口付けてもいいか?」

「え?」

 静かにオズウェルが尋ねてきて、ヴィエラはつい聞き返してしまった。
 
(口付けてもいいかって……キスってこと!?)

「えっ!? え、えええっ!?」

 ぼっとヴィエラの顔に血が上る。
 一瞬のうちにさらに体温が上がってしまって、ヴィエラはくらりとしてしまう。

「嫌なら嫌と言ってくれていい。……昨日、無許可でお前に触れてしまったからな」

 オズウェルに顔を覗き込まれて、心臓が飛び出てしまいそうなほどドキドキしていることをヴィエラは感じていた。
 じっと見つめてくるオズウェルの群青色の瞳に、吸い込まれてしまいそうになる。
  ヴィエラはオズウェルの背中をぎゅっと握った。

「……あの、嫌じゃ……ないわ」

「……っ!」

 ヴィエラが消え入りそうな声でそう言った直後、ぐっとあご先をオズウェルに掴まれた。
 そのまま顔を上向けられて、唇をオズウェルのそれに塞がれる。

「ん……っ!」

 それは、決して無理やり押し入るものではなく。
 何度も何度もついばむように触れられて、雪が降り積もっていくように、温かい気持ちがヴィエラの胸に積もっていく。

「……ヴィエラ」

(……っ!!)

 オズウェルが名前を呼んだ。
 たったそれだけで、ヴィエラの胸が鼓動を早めていくのだ。

「ぁ……ん……っ」

 オズウェルとのキスは心地よい。
 だけど、キスだけでは物足りなく感じてしまう。

 (私の体、変になっちゃったのかしら)
 
「お前はかわいらしいな」

 オズウェルはそっとヴィエラの胸の膨らみへ手を置いた。
 口付けながら、優しく布越しに胸の形を確かめるように撫でる。
 その感触がたまらなくもどかしい。

「……あ……っんん」
 
 やがてオズウェルの長い指先が、ヴィエラの胸の先端を探り当て、ピンと弾いた。
 思わずあげてしまった声は、絶え間なく与えられる溺れるような口付けに吸い込まれていく。

「や、……ふぁ……っ」

 何度も何度も繰り返し擦られて、おかしくなってしまいそうだ。
 ヴィエラは無意識のうちに両膝を擦り合わせていた。
 それに気づいたオズウェルが、胸を撫でていた手をそっとヴィエラの太ももへと移動させる。

「……ッッ」

 つつ、と太ももを下から上へとなぞり、足の付け根まで来たところでオズウェルは指をとめた。
 
「あまり私を誘ってくれるな。乗ってしまいたくなる」

 その後、完全に体の力が入らなくなるまで、ヴィエラはオズウェルに口付けられ続けていた。
 
 
 

 
 
 

 
 



 
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