【番外編追加】冷酷な氷の皇帝は空っぽ令嬢を溺愛しています~記憶を失った令嬢が幸せになるまで~

柊木ほしな

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第2章

11・ファーストキスは強引で

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(ちょ……、それってここにオズウェルが来るかもしれないってこと……?)

 セリーンがオズウェルを呼びに、部屋を飛び出してしまった。
 何か差し迫った用事がない限り、オズウェルはこの部屋にやってくるだろう。

(ど、どうしよう)

 ヴィエラとしては、せめて身だしなみを確認したいものだ。
 きっと自分だけでは気づけないから他の人にも確認してもらいたいのだが、セリーンはいなくなってしまった。
 他に使用人は居ないだろうかとヴィエラは部屋を見回すが、部屋の中には当然ヴィエラしかいない。
 どうやらオズウェルがヴィエラと関わる使用人をかなり制限しているようで、基本的にヴィエラの周囲に控えているのはセリーンだけだった。
 特に男性の使用人は、私の姿を見るとさっと視界から消えるようにして移動していく。
 大方、オズウェルがなにか指示を出しているのだろうが、ヴィエラは何も知らされていないので真相は分からなかった。

(と、とりあえず誰かに確認してもらいたいわ。少しだけなら……部屋の外に出てもいいわよね?)

 さすがに廊下には誰かいるだろう。
 それに、セリーンが戻ってくるまでに(オズウェルが来るまでに)部屋に戻っていれば大丈夫なのではないだろうか。

 ヴィエラはそっと部屋の扉を開けて外の様子を伺ってみる。
 幸い扉のすぐ横に、男の使用人が立っていた。
 使用人はヴィエラに気づくと、困ったように視線をさ迷わせ……躊躇いがちに声をかけてきた。

「……ヴィエラ様、どうかなされましたか?」

「あ、あのね、ドレス、変じゃないかしら?」

 単刀直入に聞いてみる。
 使用人は一瞬目を丸くしたが、すぐに目元を笑みの形に変えた。

「何を仰っているんです。とてもお美しいですよ。オズウェル様がご覧になられたら、きっとお喜びになります」

「そ、そう……?」

 誰かにそう言って貰えて安心する。安堵したヴィエラはほっと胸に手を当てた。

「……ただ、俺が今ヴィエラ様とお話したことは、オズウェル様には内緒にしてくださいね、お願いします」

「え、どうして――?」

 (そう、気にはなっていたのよね。男性の使用人たちがどうして私と距離をとるようにしているのか)
 
  ヴィエラが聞き返そうとしたその時だ。聞き覚えのある声がしたのは。

「……私より先に、ほかの男に見せるとはな」

「……っ!?」

 不機嫌そうな低い声に、ヴィエラはびくりと肩を震わせる。
 見上げた視線の先にいたのは、案の定オズウェルだった。

「あ、の……これは」

 ただ、確認してもらっていただけで。
 
 ヴィエラがそう口にする前に、オズウェルに腕を強く掴まれた。
 そのままオズウェルに引きずられていく。

「……い……っ」

 腕を掴むオズウェルの力が強く、ヴィエラは思わず声を漏らしてしまう。
 オズウェルはヴィエラの小さな悲鳴にハッとしたのか少しだけ力を弱めた。だが反応はそれだけで、無言でヴィエラをどこかへ連れていく。
 
 適当な部屋にヴィエラを押し込むと、ヴィエラの背を扉に押し付けた。 
 そのまま自身の体で囲うように、オズウェルは扉を手をつく。

「オズウェル……?」

(怒っているの……?)

 恐る恐るヴィエラが見上げると、オズウェルはやはり不機嫌そうな顔をしていた。
 何か彼を不機嫌にさせてしまうようなことをしてしまっただろうか、とヴィエラは不安になってしまう。

「あの……オズウェル……怒らないで?」

 オズウェルは一体何に怒っているのだろう。
 分からないけれど、分からないなりにヴィエラは必死に考える。
 
「もしかして、このドレス、オズウェルの好みじゃなかった?」

 きっとオズウェルは、セリーンに呼ばれてわざわざヴィエラのドレスを見に来てくれたはずだ。
 それなのに怒っているのは、オズウェルの好みとはかけ離れたものだったからに違いない。

 (大人っぽいものの方が好みだったのかしら)

「だとしたらすぐに着替えるわ――」
 
 だから機嫌を直して欲しい。
 そう続けようとしたヴィエラの唇は、オズウェルによって封じられた。

「ん、ンン……っ」

 強く扉に背を押し付けられて、逃げられない。
 噛み付くようなキスをオズウェルから与えられて、息をすることさえままならなかった。
 オズウェルの舌先がヴィエラの唇をなぞり、その感触にヴィエラはぞくりと震えた。

「オズウェ……んぅ……っんん!」

 名前を呼ぼうとわずかに開いた唇へ、オズウェルが舌を差し入れてくる。
 誰かに口付けられたことも、舌を入れられたこともヴィエラは初めてで。
 ただただ混乱して、ヴィエラにはどうすることも出来なかった。
 怯えて奥に隠れていた舌はあっという間に見つかって、オズウェルの舌に捕まってしまう。
 舌先を絡められて、何度も何度も擦り合わせられる。

「ん、んん……ふ、ぁ……っンぅ……っ」

 唾液が溢れて収まりきらなかったものが、口の端から顎を伝って零れていった。

「……どうして私より先に、ほかの男へドレスを見せた」

 オズウェルがキスの合間に呟いた言葉に、ヴィエラは目を見開く。
 
(まさか、それで怒ってるの……?) 

「私がどれほどお前に焦がれ続け、長い時間探し求めていたか……。お前は知らないだろう」

 見上げたオズウェルの青い瞳の奥は、怒りだけではなく、複雑な感情が渦巻いているように見えた。

「お前は誰にも渡さない。他の男は関わらせない。お前は、私だけの妻になるんだ」

「オズ、ウェル……っん、んぅ」

 あれはただ確認をしてもらっていただけなのだと。そんなつもりはなかったのだと。
 言いたいのに、絶え間なく口付けられるからまともに言葉を発せない。

「……はぁ……っオズウェル……っ」

 ようやく唇を解放されたときには、もうヴィエラはぐったりとしていた。
 体に力が入らなくて、くたりと扉に寄りかかってしまう。

 オズウェルは少し身を屈めヴィエラの膝裏に手を差し込むと、ヴィエラを軽々と持ち上げた。

「ふ、ぇ……っ!?」

(な、なになになに!?)
 
 体が宙に浮いている。
 
「正式に結婚するまではと思っていたが……。うっかり誰かに手を出される前に、私しか感じないように教えこんでおいた方が良さそうだな」

 オズウェルがヴィエラの耳元に直接吹き込んでくる。
 その言葉の響きとくすぐったさに、ヴィエラはびくりと震えた。
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