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第2章
10・ドレス選び
しおりを挟む翌日。
いつも通り自室で軽い朝食を食べ終えたヴィエラは、セリーンから告げられた言葉に目を瞬かせた。
「え? ドレスを選ぶ?」
「ええ、茶会用に新しいドレスをお仕立てしてはいかがかと、オズウェル様が。それに、ヴィエラ様お持ちのドレスは薄手でしょう? ルーンセルンでは寒いですよ」
「確かに……」
セリーンの言葉にヴィエラは納得してしまう。
確かにヴィエラは数着、メーベルのいえからドレスを持ってきた。
しかし、メーベルは年中温暖な国だ。一年中雪のふりしきるルーンセルンとは、そもそも布地の厚さが異なる。
「わかったわ。お言葉に甘えさせて貰うわね」
ヴィエラはセリーンに頷きを返した。
◇◇◇◇◇◇
その日の午後。
セリーンに案内された部屋にいくと、仕立て屋と思われる女性が数人控えていた。
「それではヴィエラ様、採寸させていただきますわね」
「お願いします」
女性たちは手際よくヴィエラの体をメジャーで採寸していく。
あらかた測り終えると、今度はどこからともなく可動式のハンガーラックを引っ張り出してきた。
「さぁさヴィエラ様! 今流行りのデザインを一通りお持ちいたしましたわ! 気になるものがあればおっしゃってください、お好きなものでお仕立てしてまいります!」
「試着もできますよ~!」
(すごい……)
王城での営業に気合いが入っているのか、仕立て屋の女性たちはテンションが高い。
次から次へと色とりどりでさまざまなデザインのドレスを見せられて、ヴィエラは目が回りそうだ。
「あ、ありがとう。とりあえずこのピンクのドレスを試着させてもらってもいいかしら」
「はい! ぜひ!」
(そういえば、オズウェルの好みのドレスってどんなものなのかしら)
一瞬オズウェルの顔が頭に浮かんで……、慌ててヴィエラはかき消すように頭を振った。
◇◇◇◇◇◇
とりあえず勧められるままにいくつかのドレスを試着してみた結果。
ヴィエラの好みのドレスは見つかった。
ふわふわとしたレースが重ねられた美しいデザインのものだ。
「ではこちらのデザインでお仕立してまいりますね!」
そう言って仕立て屋たちは、荷物やらドレスやらをまとめて部屋を出ていこうとする。
ヴィエラは慌てて呼び止めた。
「え、ま、待って……!」
(試着用のドレス、まだ着たままだわ!)
注文したものとはデザインが異なるが、気になったので試着させてもらっていた薄青のドレス。
背中にはリボンの編み込みもあり、可愛らしい。
これも返却しなくてはならないだろう。
しかしヴィエラの声に振り返った仕立て屋たちは、にこりと気のいい笑顔を浮かべた。
「そちらはヴィエラ様にサイズがピッタリでしたので、サービスです! 次のドレスも、ぜひうちでよろしくお願いしますね! ご贔屓に~!」
引き止める間もなく嵐のように去っていく。
あまりの勢いに、ヴィエラの後ろで控えていたセリーンも苦笑していた。
「さすが、商売上手ですね」
「いいのかしら……」
ドレス一着、安いものではない。
このドレスもレースがふんだんにあしらわれ、丁寧に作られているのが見て取れる。
不安げに呟いたヴィエラに、セリーンは「大丈夫ですよ」と笑顔で言った。
「せっかくですし、オズウェル様にお見せしませんか?」
「え、ええっ!」
不意にオズウェルの名前を出されて、ヴィエラの頬がかっと熱くなる。
(た、確かにオズウェルの反応は気になるけれど……!)
ドレスを試着する前に、ヴィエラは少し考えたのだ。
オズウェルの好みのドレスはどんなものなのだろう、と。
できることなら似合っていると思われたいし、オズウェルに少しでも気に入ってもらいたい。
(やっぱり私、オズウェルのこと……)
真っ赤な顔で俯いてしまったヴィエラを見て、セリーンは楽しそうに微笑みを浮かべた。
「オズウェル様をお呼びしてまいりますね!」
「え、えええっ! 待ってセリーン!」
セリーンのとんでもない提案に、驚いたヴィエラは思わず声を上げる。
しかしヴィエラが呼び止めた時には既にセリーンは部屋におらず。
(いつの間に出ていったの!?)
セリーンを引き留めようと伸ばした手は行き場を失い、ヴィエラは手をさまよわせるしかなかった。
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