上 下
3 / 52
第1章

3・皇帝陛下は冷酷?

しおりを挟む

「お前の記憶について話を聞きたいところだが……、私はしばらく政務が立て込んでいて相手ができない。来たばかりなのにすまないな」

「い、いえ、お仕事なのでしたら仕方がありませんわ」

 申し訳なさそうなオズウェルの様子に、ヴィエラは内心安堵していた。

 (なんだ、『冷酷な氷の皇帝』なんてただの噂なんじゃない)

 本当に冷酷なら、申し訳なさそうな顔も、ヴィエラを気遣うような言葉もかけやしないだろう。
 この人となら、上手く夫婦としてやっていけるかもしれない。
 沈んでいたヴィエラの心に、ほんの少し希望の光が差した気がした。

 (それに……この人のそばにいれば、昔のことを思い出せるかもしれない)

 オズウェルは、7年より以前のヴィエラについて知っているようだった。
 失っている空白の時間を取り戻せるかもしれない。

「代わりといってはなんだが、信頼のおけるものをお前の専属のメイドとして選んだ。……セリーン」
 
「は……っ。オズウェル様、こちらに」

 オズウェルの声を受けて、どこからともなく紺のメイド服に身を包んだ女性が現れる。

 (いつの間に……!?)

 オズウェル以外の人の気配なんてしなかったのに。
 足音も物音も立てずに現れたメイドは、ヴィエラに向かって深く頭を下げた。

「ヴィエラ様、初めまして。わたくしはセリーンと申します。なんなりとお申し付けくださいませ」

 セリーンの歳の頃は、19のヴィエラと同じように見える。
 癖の強い赤毛を三つ編みにしたセリーンは、顔を上げるとにこりの微笑んだ。
 人の良さそうな笑みに、ヴィエラはほっとする。

 (この子と仲良くなりたいな……)

 専属のメイドということは、これから共に過ごす時間は多いだろう。
 せっかくだし、仲良くなりたい。

「セリーン、よろしくね」

 ヴィエラはセリーンに向かって微笑みを返した。


 ◇◇◇◇◇◇


 オズウェルはよほど仕事がたてこんでいるのか、セリーンを紹介し終わるとすぐに部屋を出ていった。

 (……忙しいのに、わざわざ会いに来てくれたのかしら)

 挨拶なんて後日でも問題は無いというのに、律儀な人だとヴィエラは思う。

 (やっぱりオズウェルは、冷酷なんかじゃないわ)

 ほんの少ししか言葉を交わしていなくても、その思いはヴィエラの中で大きくなりつつあった。

 (オズウェルとも、距離を詰めていけたらいいな)

 この婚姻は、政略結婚ではある。
 だけれど、ヴィエラとしては殺伐とした夫婦生活は送りたくないし、仮面夫婦にもなりたくなかった。できることなら、円満な夫婦関係を築きたいものだ。

 (オズウェルとなら、できるかもしれない……)

「ヴィエラ様、お部屋にご案内いたします」

 セリーンに声をかけられて、ヴィエラはどきりとする。
 自分の世界に入り込んでいた意識を、慌てて現実に戻した。

「え、ええ、お願いするわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】身代わり令嬢は、銀狼陛下に獣愛を注がれる

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 人間の国で王太子妃となるべく育てられた公爵令嬢エマ。だが、エマの義妹に獣人国との政略結婚が持ち上がった際に、王太子から「君の妹を好きになってしまった」と言われて義妹に奪われた挙げ句、エマが獣人国に嫁がされることになってしまった。  夫になったのは、獣人国を統べる若き皇帝ファング・ベスティエ。狼獣人と人間の混血である彼は、ほとんど人間といって差し支えのない存在だ。だが、あまり愛のある結婚とは言えず、妻として求められるのは月に一度きりであり、満月の前後には全く会うことが出来ない。  そんな状態が1年近く続いたある時、豹令嬢から「私は満月の日の前後、ファング様から夜の呼び出しがあっている」と告げられてしまい――? ※ムーンライトノベルズで日間1位になりました。 ※10000字数程度の短編。全16話。 ※R18は正常位(半獣人)→対面座位(獣人)→後輩位(獣姦)、苦手な人は避けてください。

【R18】お飾りの妻だったのに、冷徹な辺境伯のアレをギンギンに勃たせたところ溺愛妻になりました

季邑 えり
恋愛
「勃った……!」幼い頃に呪われ勃起不全だったルドヴィークは、お飾りの妻を娶った初夜に初めて昂りを覚える。だが、隣で眠る彼女には「君を愛することはない」と言い放ったばかりだった。 『魅惑の子爵令嬢』として多くの男性を手玉にとっているとの噂を聞き、彼女であれば勃起不全でも何とかなると思われ結婚を仕組まれた。  淫らな女性であれば、お飾りにして放置すればいいと思っていたのに、まさか本当に勃起するとは思わずルドヴィークは焦りに焦ってしまう。  翌朝、土下座をして発言を撤回し、素直にお願いを口にするけれど……?  冷徹と噂され、女嫌いで有名な辺境伯、ルドヴィーク・バルシュ(29)×魅惑の子爵令嬢(?)のアリーチェ・ベルカ(18)  二人のとんでもない誤解が生みだすハッピ―エンドの強火ラブ・コメディ! *2024年3月4日HOT女性向けランキング1位になりました!ありがとうございます!

竜騎士王子のお嫁さん!

林優子
恋愛
国一番の竜騎士であるグレン王子は二十六歳。 竜が気に入る娘がいないため長く独身だったが、竜騎士の血統を絶やすわけにはいかず、お妃選び大会が催される。 お妃に選ばれた子爵令嬢のエルシーだが、十歳から女性に触れていないグレン王子は当然童貞。もちろんエルシーは処女。 エルシーは無事子作り出来るのか。キスから始まるレッスンの後、エルシーは王子のお嫁さんになる! 【第二章】王家の婚礼にして戴冠の儀式をするため始まりの地、ルルスに向かうエルシーとグレン王子。そこで、ある出会いが?運命の乙女を求め、愛する王家の秘密がちょっと明らかに。 ※熱病という病気の話が出てきます。 「ムーンライトノベルズ」にも掲載しています。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

最強騎士の義兄が帰ってきましたが、すでに強欲な王太子に調教されています

春浦ディスコ
恋愛
伯爵令嬢のセーラは国内最強騎士であるユーゴが義兄になった後、子爵令嬢から嫌がらせをされる日々が続いていた。それをきっかけにユーゴと恋仲になるが、任務で少しの間、国を離れることになるユーゴ。 その間に王太子であるアレクサンダーとセーラの婚約が決まって……!? ※タイトルの通りです ※タグの要素が含まれますのでご注意くださいませ

【R18】国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった

ほづみ
恋愛
国王から「平和になったので婚活しておいで」と言われた月の女神シアに仕える女神官ロイシュネリア。彼女の持つ未来を視る力は、処女喪失とともに失われる。先視の力をほかの人間に利用されることを恐れた国王からの命令だった。好きな人がいるけどその人には好かれていないし、命令だからしかたがないね、と婚活を始めるロイシュネリアと、彼女のことをひそかに想っていた宰相リフェウスとのあれこれ。両片思いがこじらせています。 あいかわらずゆるふわです。雰囲気重視。 細かいことは気にしないでください! 他サイトにも掲載しています。 注意 ヒロインが腕を切る描写が出てきます。苦手な方はご自衛をお願いします。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【R18】婚約破棄されたおかげで、幸せな結婚ができました

ほづみ
恋愛
内向的な性格なのに、年齢と家格から王太子ジョエルの婚約者に選ばれた侯爵令嬢のサラ。完璧な王子様であるジョエルに不満を持たれないよう妃教育を頑張っていたある日、ジョエルから「婚約を破棄しよう」と提案される。理由を聞くと「好きな人がいるから」と……。 すれ違いから婚約破棄に至った、不器用な二人の初恋が実るまでのお話。 他サイトにも掲載しています。

処理中です...