3 / 6
3
しおりを挟む
私は昔からシンデレラの話が嫌いだった。
12時で解ける魔法を掛けてくれる魔法使いなんてどこにも居ないし、カボチャは馬車にならない。カボチャは食うもんだろ。ガラスの靴なんて怖くて履けない。滑って転んだり割れて足を怪我したらどうするよ。
そして自分を探してお嫁さんにしてくれる王子様もどこにも居ない。自分がシンデレラと同じ境遇になったから良く分かる。そう、どこにも居ないのだ。
だから自分の居場所は自分で作るしかない。魔法使いが現れないなら自分が魔法使いになってやる。私はシンデレラのように虐めを受けても抵抗せず、黙って耐えるなんて真似は死んでもゴメンだ。
やられたらやり返す。この信念が私を支えている。そして今日も。
「ねぇ、おじさん。もうちょっと色付けてよ」
「いやいや、悪いがこれ以上は無理だって」
「何よ!? お得意さんにサービスするのは当たり前でしょ!? 色付けてくれないんだったら別の店に行くわよ!?」
「敵わねぇな、嬢ちゃんには...分かった分かった、これでどうだ!?」
「わ~い♪ ありがとう、おじさん♪」
今私は質屋に来ている。愚かなあいつらの宝石や貴金属類を売るためだ。どうせあいつらに物の真贋なんて分かりっこない。キラキラ光ってりゃご機嫌なんだから。全てイミテーションに変えてやった。
私の私物だった宝石や貴金属類も、あいつらに獲られる前に母の形見以外は全て売った。なんでそんなに金が必要かだって? 自分の身を守るためだ。
あいつらの言いなりに成り果てた愚かな父は、いずれ私をどこかの金持ち貴族に売るだろう。あいつらにとって私は邪魔な存在だから。中年太りして脂ぎったハゲデブ親父か、あるいはロリコン変態趣味のキモオタ親父か。どっちも冗談じゃない。
そんな所に売られるくらいなら逃げ出してやる。そのための資金集めをしている最中という訳だ。ちなみに私の銀髪と碧い目は目立つので変装している。長い髪はお団子に纏め、その上から帽子を被って隠している。それと瓶底メガネを掛けて目を隠している。これで伯爵家の令嬢には見えないはずだ。
◇◇◇
深夜、あいつらが寝静まった後、私達は内職を始める。賛同してくれているのは、私付きの侍女だったサラと、義母の侍女メイ、義姉の侍女カナ、この3人だ。みんな私の境遇に同情し参加してくれている。私がここを出て行く時には一緒に付いて行くとまで言ってくれた。有り難くて涙が出る。
「ねぇ、サラ。そっちは後どれくらい?」
「残り3着です」
「メイとカナは?」
「「 残り1着です 」」
「ありがとう。明日には何とか間に合いそうね」
明日は週に1回開かれるフリーマーケットの日だ。私達はあいつらが着なくなった、あるいは太って着れなくなったドレスを少しずつ失敬してパッチワークをしている。あいつらはドレスが減っても気付きもしないだろう。
あいつらが身に付けてる宝石や貴金属類、ドレスも全て伯爵家の金で買った物だ。罪悪感を感じる必要はこれっぽっちも無い。それは3人にも良く言い含めてある。
あいつらの趣味の悪いドレスも、継ぎ接ぎすれば奇抜なデザインに見えないこともない。現にフリーマーケットに出すようになってから、ちょっとずつ話題になってきて、売れ残りはほとんど無い。常連さんも付いてくれた。
「はい、いらっしゃい、いらっしゃい~! 安いよ、安いよ~! そこのお姉さん、おひとつ如何?」
「サラ、先に食事休憩に入って」
今日は私とサラが店番だ。私は質屋の時と同じ変装スタイルで接客している。身バレする訳にはいかない。
「分かりました。そういえば今日はまだ「王子様」来ませんね」
「王子様は止めてよ」
サラが言う「王子様」とは、最近常連さんになってくれた人のことだ。明らかに私と同じように変装して現れる人で、隠そうとしても隠し切れない貴族オーラがだだ漏れしている。
「やあ、今日も買いに来たよ」
そう、この人だ。帽子を目深に被り黒縁のメガネを掛けている。顔は良く見えないがイケメンであるのは間違いない無さそうだ。
「ここからここまで全部頂戴」
そしていつも大人買いしてくれる。
「いつもありがとうございます。あの、良かったらこれを」
「これは? 君が刺繍したハンカチ?」
「はい、こんなもので良かったらサービスさせて下さい」
「ありがとう! 凄く嬉しいよ!」
うっ! その眩しい笑顔は止めて欲しい。勘違いしそうになる。私には王子様が迎えになんて来ないんだから...
12時で解ける魔法を掛けてくれる魔法使いなんてどこにも居ないし、カボチャは馬車にならない。カボチャは食うもんだろ。ガラスの靴なんて怖くて履けない。滑って転んだり割れて足を怪我したらどうするよ。
そして自分を探してお嫁さんにしてくれる王子様もどこにも居ない。自分がシンデレラと同じ境遇になったから良く分かる。そう、どこにも居ないのだ。
だから自分の居場所は自分で作るしかない。魔法使いが現れないなら自分が魔法使いになってやる。私はシンデレラのように虐めを受けても抵抗せず、黙って耐えるなんて真似は死んでもゴメンだ。
やられたらやり返す。この信念が私を支えている。そして今日も。
「ねぇ、おじさん。もうちょっと色付けてよ」
「いやいや、悪いがこれ以上は無理だって」
「何よ!? お得意さんにサービスするのは当たり前でしょ!? 色付けてくれないんだったら別の店に行くわよ!?」
「敵わねぇな、嬢ちゃんには...分かった分かった、これでどうだ!?」
「わ~い♪ ありがとう、おじさん♪」
今私は質屋に来ている。愚かなあいつらの宝石や貴金属類を売るためだ。どうせあいつらに物の真贋なんて分かりっこない。キラキラ光ってりゃご機嫌なんだから。全てイミテーションに変えてやった。
私の私物だった宝石や貴金属類も、あいつらに獲られる前に母の形見以外は全て売った。なんでそんなに金が必要かだって? 自分の身を守るためだ。
あいつらの言いなりに成り果てた愚かな父は、いずれ私をどこかの金持ち貴族に売るだろう。あいつらにとって私は邪魔な存在だから。中年太りして脂ぎったハゲデブ親父か、あるいはロリコン変態趣味のキモオタ親父か。どっちも冗談じゃない。
そんな所に売られるくらいなら逃げ出してやる。そのための資金集めをしている最中という訳だ。ちなみに私の銀髪と碧い目は目立つので変装している。長い髪はお団子に纏め、その上から帽子を被って隠している。それと瓶底メガネを掛けて目を隠している。これで伯爵家の令嬢には見えないはずだ。
◇◇◇
深夜、あいつらが寝静まった後、私達は内職を始める。賛同してくれているのは、私付きの侍女だったサラと、義母の侍女メイ、義姉の侍女カナ、この3人だ。みんな私の境遇に同情し参加してくれている。私がここを出て行く時には一緒に付いて行くとまで言ってくれた。有り難くて涙が出る。
「ねぇ、サラ。そっちは後どれくらい?」
「残り3着です」
「メイとカナは?」
「「 残り1着です 」」
「ありがとう。明日には何とか間に合いそうね」
明日は週に1回開かれるフリーマーケットの日だ。私達はあいつらが着なくなった、あるいは太って着れなくなったドレスを少しずつ失敬してパッチワークをしている。あいつらはドレスが減っても気付きもしないだろう。
あいつらが身に付けてる宝石や貴金属類、ドレスも全て伯爵家の金で買った物だ。罪悪感を感じる必要はこれっぽっちも無い。それは3人にも良く言い含めてある。
あいつらの趣味の悪いドレスも、継ぎ接ぎすれば奇抜なデザインに見えないこともない。現にフリーマーケットに出すようになってから、ちょっとずつ話題になってきて、売れ残りはほとんど無い。常連さんも付いてくれた。
「はい、いらっしゃい、いらっしゃい~! 安いよ、安いよ~! そこのお姉さん、おひとつ如何?」
「サラ、先に食事休憩に入って」
今日は私とサラが店番だ。私は質屋の時と同じ変装スタイルで接客している。身バレする訳にはいかない。
「分かりました。そういえば今日はまだ「王子様」来ませんね」
「王子様は止めてよ」
サラが言う「王子様」とは、最近常連さんになってくれた人のことだ。明らかに私と同じように変装して現れる人で、隠そうとしても隠し切れない貴族オーラがだだ漏れしている。
「やあ、今日も買いに来たよ」
そう、この人だ。帽子を目深に被り黒縁のメガネを掛けている。顔は良く見えないがイケメンであるのは間違いない無さそうだ。
「ここからここまで全部頂戴」
そしていつも大人買いしてくれる。
「いつもありがとうございます。あの、良かったらこれを」
「これは? 君が刺繍したハンカチ?」
「はい、こんなもので良かったらサービスさせて下さい」
「ありがとう! 凄く嬉しいよ!」
うっ! その眩しい笑顔は止めて欲しい。勘違いしそうになる。私には王子様が迎えになんて来ないんだから...
4
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説
辺境伯は王女から婚約破棄される
高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」
会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。
王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。
彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。
だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。
婚約破棄の宣言から始まる物語。
ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。
辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。
だが、辺境伯側にも言い分はあって……。
男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。
それだけを原動力にした作品。
【完結】婚約破棄と言われてもっ!~人違いですわぁ~
紫宛
恋愛
※素人作品です、ゆるふわ設定、息抜き作品、手直しするかも……。よろしくお願いいたします※
婚約破棄と言われましたが、どちら様?
私は、あなたとは婚約しておりませんわ!
わたくしの話を聞いて下さいませ!!
ドアマットヒロインって貴族令嬢としては無能だよね
みやび
恋愛
ドアマットにされている時点で公爵令嬢として無能だよねっていう話。
婚約破棄ってしちゃダメって習わなかったんですか?
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/123874683
と何となく世界観が一緒です。
王太子を寝取って成り上がるヒロインなんてなれるわけがない
みやび
恋愛
玉の輿を寝取ってハッピーエンドに持ち込むのは大変すぎるだろっていう話
婚約破棄ってしちゃダメって習わなかったんですか?
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/123874683
ドアマットヒロインって貴族令嬢としては無能だよね
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/988874791
婚約破棄する王太子になる前にどうにかしろよ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/452874985
と何となく世界観が一緒です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる