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第7話 残念な男達

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 ソフィアは興奮で頭がクラクラしていた。なぜなら、目の前に信じられない光景が広がっているからだ。

「ソフィア、疲れてないかい? お茶のお代わりは如何?」

「ソフィア、甘い物はどうだい? 飴ちゃんあるよ?」

「ソフィア、肩は凝ってないか? 良かったら揉んであげようか?」

「ソフィア、眠くない? 膝枕してあげるよ?」

 推しメン達の多角攻撃に、ソフィアは今にも撃沈しそうだった。これは夢なのか? 夢なら醒めないで欲しいと心から願った。

 なぜこんな状況になっているか? それは数時間前に遡る。


◇◇◇


 レイナルド、ブラッド、デレク、マシュー、この四人はそれぞれ婚約者が居る。第2王子、宰相子息、近衛騎士団長子息、魔法騎士団長子息という彼らの立場からすれば当然のことで、寧ろ居ない方がおかしい。

 にもかかわらず、ソフィアにこのような態度を取るのはどういうことかと言えば、なんのことはない、四人ともソフィアに懸想しているからだ。残念なことに。

 ソフィアを意識するようになったのが何時頃なのか、四人ともその辺りはハッキリしない。ただ気付いたら目で追うようになっていた。

 婚約者が居る身でありながら他の女性に心を奪われるなんて、許されないことだと頭では分かっているのだが、いつの世でも禁断の恋というのは心惹かれるもの。

 ましてや自分の意思ではなく、子供の頃に親同士で決められた政略目的の婚約である。そこに愛はない。愛のない婚約者よりも魅力的な女性が居れば、目移りしても仕方無いかも知れない。

 と、勝手に自己完結した四人だが、もちろんそんなはずはない。たとえ政略目的であろうとなかろうと、愛があろうとなかろうと、婚約者に対しては誠意ある対応が求められる。それが貴族というものである。

 そんなことも分からない残念な四人は、なんとかしてソフィアとお近付になりたいと思っていた。だがこれが中々難しい。なにせソフィアは、目が合えば逸らされる。近付けば逃げられる。話し掛けても赤くなって俯くだけで反応がない。

 かといって嫌われてるのかと思えばそうでも無さそうで、遠くから視線を感じるとそこにソフィアが居る。目が合えば逸らされるし、近付けば逃げられるのだが、常に一定の距離を保ったままそこに居る。

 まるで悪戯な妖精のようで、いつしか四人の間では『妖精姫』と呼ばれるようになった。ソフィアは推しメンのカップリングを楽しむために遠くから眺めているだけなのだが、この四人は知る由もない。

 大体いつも四人で固まっているため、誰がソフィアのお目当てなのか分からない。気になってしょうがない四人は強権を発動することにした。

「生徒会の業務が忙しいので手伝って欲しい」という名目で、ソフィアを呼び出そうと画策したのだ。ちなみに四人の役職はそれぞれ、会長、副会長、書記、会計となっている。

 そしてソフィーは庶務を担当している。要は雑用係だ。最近、彼女がソフィアと仲良くしていることを聞きつけた四人が、ソフィーに命じて連れて来させたのだ。渋るソフィーをなんとか説き伏せて。

 そして冒頭に至る、


◇◇◇


「皆さん、真面目に仕事して下さい!」

 生徒会室にソフィーの怒声が木霊する。手伝いと称してソフィアを呼び出しておいて、やってることと言えば、四人でただ只管ソフィアを構うだけ。騙されたと思うのは当然だろう。

「ほら、さっさと仕事して下さい、会長。僕らのことはお構い無く。ソフィア、良かったら今度観劇でも一緒にどう?」

「そうそう、会長がしっかりしてるから、俺らは遠慮無く休めるな。ソフィア、今度馬で遠乗りしないか?」

「会長~! 後はヨロシク~! ソフィア、今度ボクと美味しい物食べに行こうよ!」

「お前ら~! いい加減にしろ~! 抜け駆けしてんじゃねぇ!」

 四人の掛け合いを興奮しながら食い入るように見詰めるソフィアは、今夜徹夜してでもBL本を一冊書き上げることだろう。

 そんな生徒会室の喧騒を、ドアの隙間からコッソリと覗いている人影があった。その人影はソフィアのことを厳しい目で睨み付けていた。


 

 
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