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「父上~!」
最前線で指揮を執っていたライリーは、愛娘の自分を呼ぶ声に顔を上げた。
「おう! 戻ったか、リリアナ!」
見上げた先にはファルファルに跨がったリリアナの姿があった。そしてそのリリアナの後ろには、
「えっ!? クラウド殿下!?」
病床に就いているはずのクラウドの姿があった。ライリーは困惑した。
「ライリー卿、ご苦労さん」
当のクラウドはなんでもないことのようにファルファルの背から降り、ライリーの元に駆け寄った。
「殿下、お体の方はよろしいので?」
ライリーはまず、クラウドの体調を気遣った。
「もう大丈夫だ。心配掛けて済まない。それで戦況はどうなっている?」
「今は膠着状態といったところです。敵魔道士部隊の火力が強過ぎて、我が軍の前線が押し下げられました。我が軍の方の魔道士部隊も頑張ってくれていて、ギリギリのところでなんとか抑えていますから、これ以上後退させられることはありませんが...火力の差は如何ともし難い状況といった感じですね...」
元々、南の砦には魔道士の数がそれほど多くない。理由は一番の驚異となる蛮族が、魔法を使えない種族だからだ。相手からの魔法攻撃が無い以上、これまでは魔道士部隊の方に力を注ぐ必要性があまりなかった。
だから、南の砦に常駐している魔道士部隊の主な意味合いは、今回のような『東の国』対策ということになる。
そして今、想定を超える規模で増強された敵魔道士部隊の脅威に晒されているという訳だ。ヒルデガルトが南の砦に魔道士を増員するように提言したのは、先見の明があったと言って良いだろう。
ライリーの説明にクラウドは一つ頷きながら、
「なるほど...敵の主力部隊に動きは?」
「今のところ、まだ目立った動きは見せておりません。敵魔道士部隊の張る弾幕の後ろに控えているのは間違いないと思うのですが」
「フム...リリアナはどう思う?」
「そうですね...」
リリアナは敵の攻撃に目を向けながらしばし黙考した後、
「私なら魔道士部隊の攻撃を陽動に使って、主力部隊は別方向から攻めるように指示を出すかも知れません」
「な、なんだと!?」
リリアナの指摘にライリーが目を剥いた。
「あぁ、俺も同感だ。だとすると敵主力部隊は...」
クラウドは冷静に応じた後、徐に目線を左右に動かした。
「どうやらサイドからの挟撃を狙っているな。リリアナ、左に行け。俺は右に行く」
「了解」
短くそれだけ言って二人は左右に分かれた。後に残されたライリーは、呆然としながらただ見送ることしか出来なかった。
最前線で指揮を執っていたライリーは、愛娘の自分を呼ぶ声に顔を上げた。
「おう! 戻ったか、リリアナ!」
見上げた先にはファルファルに跨がったリリアナの姿があった。そしてそのリリアナの後ろには、
「えっ!? クラウド殿下!?」
病床に就いているはずのクラウドの姿があった。ライリーは困惑した。
「ライリー卿、ご苦労さん」
当のクラウドはなんでもないことのようにファルファルの背から降り、ライリーの元に駆け寄った。
「殿下、お体の方はよろしいので?」
ライリーはまず、クラウドの体調を気遣った。
「もう大丈夫だ。心配掛けて済まない。それで戦況はどうなっている?」
「今は膠着状態といったところです。敵魔道士部隊の火力が強過ぎて、我が軍の前線が押し下げられました。我が軍の方の魔道士部隊も頑張ってくれていて、ギリギリのところでなんとか抑えていますから、これ以上後退させられることはありませんが...火力の差は如何ともし難い状況といった感じですね...」
元々、南の砦には魔道士の数がそれほど多くない。理由は一番の驚異となる蛮族が、魔法を使えない種族だからだ。相手からの魔法攻撃が無い以上、これまでは魔道士部隊の方に力を注ぐ必要性があまりなかった。
だから、南の砦に常駐している魔道士部隊の主な意味合いは、今回のような『東の国』対策ということになる。
そして今、想定を超える規模で増強された敵魔道士部隊の脅威に晒されているという訳だ。ヒルデガルトが南の砦に魔道士を増員するように提言したのは、先見の明があったと言って良いだろう。
ライリーの説明にクラウドは一つ頷きながら、
「なるほど...敵の主力部隊に動きは?」
「今のところ、まだ目立った動きは見せておりません。敵魔道士部隊の張る弾幕の後ろに控えているのは間違いないと思うのですが」
「フム...リリアナはどう思う?」
「そうですね...」
リリアナは敵の攻撃に目を向けながらしばし黙考した後、
「私なら魔道士部隊の攻撃を陽動に使って、主力部隊は別方向から攻めるように指示を出すかも知れません」
「な、なんだと!?」
リリアナの指摘にライリーが目を剥いた。
「あぁ、俺も同感だ。だとすると敵主力部隊は...」
クラウドは冷静に応じた後、徐に目線を左右に動かした。
「どうやらサイドからの挟撃を狙っているな。リリアナ、左に行け。俺は右に行く」
「了解」
短くそれだけ言って二人は左右に分かれた。後に残されたライリーは、呆然としながらただ見送ることしか出来なかった。
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