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「父上! 大変だ!」

 そこにマリウスが息急き切って飛び込んで来た。その只事ではない様子に、リヒャルトは「父上呼び」を咎めるどころではなかった。あ、なんかデジャヴ...

「今度はなんだ...」

 力無く顔を上げたリヒャルトの目の前に、マリウスは北の砦からの手紙を叩き付けた。

「やっぱり来たか...」

 手紙を読んだリヒャルトは目を伏せた。恐れていた事態が現実のものとなって突き付けられる。セントラル王国は二正面作戦を強いられることになってしまった。

「父上! 俺は今すぐ北の砦に向かう! 頼むから止めないでくれ! 行かせてくれ!」

「お前もか...マリウス...」

 リヒャルトは思わず有名な某セリフを口に出していた。

「分かっている! 兄上と違い、今の俺が行ったところで大した戦力にはならないかも知れない! でも! それでも! とてもじゃないが、ここでジッとなんかしていられないんだ! きっと今、ミランダは戦っている! それなのに、婚約者の俺がただ指を咥えて待っているだけなんて耐えられない! 頼む父上! 俺を男にしてくれ!」

 血を吐くようなマリウスの言葉に、リヒャルトは頭を抱えるしかなかった。クラウドに続いてマリウスの身にもなにかあったりしたら、王国の未来は真っ暗になってしまう。それだけは避けねばならない。リヒャルトは苦渋の選択を迫られた。

「いいわ。行って来なさい。そして男になって帰ってらっしゃい」

 だがリヒャルトが口に出すより早く、ヒルデガルトの口から決断の言葉が放たれた。

「えっ!? 母上!? なんでここに居るんだ!? 寝てなくて大丈夫なのか!?」

 ヒルデガルトが居ることに今更気付いたマリウスは、なによりもまず母の体調を気遣った。

「本当にあなた達は親子ね」

 そんなマリウスの姿に苦笑しながらも、どこか嬉しそうにしているヒルデガルトだった。こんな時でも人を慮れる優しい子に育ってくれたことが嬉しかったのかも知れない。

「お、おいヒルダ...」

 だがそんなヒルデガルトとは対照的に、リヒャルトの方は気が気ではなかった。

「あなた、息子が男に成ろうとしているのよ? それを止める親がどこに居ますか?」

「し、しかしだな...」

「王国の未来が心配? そんなに自分の息子達が信用ならない?」

「い、いや...そういう積もりは無いが...」

「安心なさい。私達の息子はどちらも無事帰ってくるわ。私には分かるの」

「だ、だがな...」

「万が一帰って来なかったその時は...」

 そこでヒルデガルトはいったんタメを作ってから、

「もう一人、私と子作りすればいいじゃないの?」

 と悪戯っぽく笑いながらそう言い放った。
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