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「いや、しかしだな...」

 今、リヒャルトは国王としての国を慮る立場と、父親として息子を心配する立場の狭間とで揺れていた。

 本音を言えば病み上がりの息子に無理をさせたくない。しかしクラウドの言うことも正しい。国の有事に王族が高みの見物を決め込むなんてもっての他だからだ。

 なかなか結論が出せないでいると、

「あ、あの~...」

 クラウドの後ろの方から遠慮がちな声がした。クラウドに続いて執務室にやって来たリリアナだった。

「国王陛下、クラウド殿下には私が付いていますんでご安心ください。決して無理はさせませんので」

 リリアナにそう言われてしまえば仕方ない。リヒャルトは腹を決めた。

「分かった...許可する...」

「ありがとうございます!」

「ただし! 必ず生きて帰れ! いいか! 必ずだぞ! これは命令だ!」

 最後の方は声が震えてしまったリヒャルトだった。

「えぇ! 必ず!」

 そんな兄と父の悲壮な決意を目の当たりにしたマリウスは、声を挟むことも出来ずに瞠目するしかなかった。


◇◇◇


「兄上、忘れ物ないか?」

「あぁ、大丈夫だ」

 今、マリウスはクラウドとリリアナの二人を見送るため王宮の中庭に来ていた。既に身支度を整えたリリアナは、ジャイアントファルコンのファルファルの背に跨がって荷物を括り付けている。

「マリウス、父上のことよろしく頼むぞ? 出来る限りサポートしてくれ」

「あぁ、分かった。あ、それと、増援部隊を南の砦にすぐ送るからな。到着までなんとか耐えてくれ」

「済まん、恩に着る」

「クラウド殿下! いつでも行けます!」

 そこにリリアナの声が響いた。

「それじゃ行って来る!」

「ご武運を...」

 マリウスが祈りの言葉を口にし、今まさにファルファルが飛び立とうとした時だった。

「グオッ! グオッ!」

「えっ!? シオン!?」

 北の砦の紋章が入った旗を身に纏った飛竜のシオンが、物凄いスピードで中庭に舞い降りた。

「一体どうしたんだ!? なにがあった!?」

 慌てて駆け寄るマリウスに、シオンは無言で纏っている旗の方に顔を向けた。それで察したマリウスは、旗をまさぐって括り付けてある手紙を取り出した。

「な、なんてことだ...」

 手紙を開いたマリウスが絶句する。

「どうした!? 何事だ!?」

 出発直前だったクラウドとリリアナの二人も駆け寄って来た。マリウスは無言で手紙を渡す。

「そんなまさか...北の砦にまで...」

「ミランダ...」

 手紙を読んだ二人も絶句してしまった。まさに風雲急を告げる事態となり、三人はセントラル王国に暗雲が立ち込める気配をひしひしと感じていた。
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