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 一方その頃、王都を出発したアマンダは、ひた走るケルベロスのポチの背にしっかりと掴まり、北の砦への帰還を急いでいた。

「ポチ! もっと飛ばして!」

「ウォン!」

 アマンダの叱咤にポチが応える。そうやって順調に距離を稼いで行った。だが、王都を出てからしばらく走った辺りで、

「ウォン!」

 急にポチがスピードを落とした。予想していなかった動きにアマンダはつんのめり、危うく振り落とされるところだった。

「ど、どうしたのポチ!? 一体...」

 そこでアマンダは、ポチの三つの首の内真ん中の首だけが上を向いていることに気付き、釣られて上空を仰ぎ見た。

「あれは!? シオン!?」

 見紛うことなき飛竜のシオンが、物凄いスピードで反対方向、つまり北の砦方面から飛んで来る姿が確認できた。そしてあっという間にすれ違って遠ざかって行った。無論、アマンダ達に気付くこともなく。

「ウォン?」

 ポチは首を捻って「どうする?」と聞いているようだった。

「シオンのことを教えてくれるために止まってくれたのね。ありがとう、ポチ」 

 そこでアマンダはしばし黙考した後、

「なにかあったのは間違いないけど、今から王都に戻るよりも先を急いだ方が良さそうね。ポチ、北の砦に急ぎましょう」

 シオンの目的地は、向かった方角から見て王都で間違いないだろう。となると、北の砦の急を報せに行った公算が高い。ならアマンダとしては、先を急ぐ道を選んだ方が良いと判断した。

「ウォン!」

 再び走り出したポチは、今まで以上のスピードで駆けて行った。


◇◇◇


「父上! 失礼しますよ!」

 国王リヒャルトの執務室のドアを蹴破るような勢いで開けて入って来たのは、病床に就いているはずのクラウドだった。

「ど、どうした!? な、何事だ!?」

 その勢いに圧されたリヒャルトは、クラウドの「父上呼び」を咎めることすら出来なかった。

「あ、兄上!? 寝てなくていいのか!?」

 まだ執務室に居たマリウスも面食らった。 
 
「寝てなんかいられん!」

 クラウドはそう叫んで、南の砦からの報せのメモをテーブルに叩き付けた。

「こ、これは!?」

 メモを読んだリヒャルトが絶句する。覗き込んだマリウスも息を呑んだ。

「父上! 俺は今すぐに南の砦へ向かいます! 止めたって無駄ですよ! もう決めたんで!」

 堂々とそう宣言したクラウドに、リヒャルトは目を丸くした。

「な、なにをバカなことを! お前はまだ病み上がりではないか!」

「そんなこと言ってられませんよ! これは国家の危機なんですよ! 王族が最前線に立たないでどうしますか!」

 クラウドは一歩も退かない構えだ。
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