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「おう、ミランダ。訓練中に済まんな」
司令官室に着いたミランダを労いながらも、ガストンは視線を上げることもせず、忙しそうになにやら書類を認め続けていた。
「話は聞いたわ、パパ。どうするつもり?」
「ちょっと待て...良し、これでいい」
ガストンは認めていた書類を便箋に入れた。
「ミランダ、この手紙を大至急、国王陛下に届けてくれ」
「分かったわ」
「あ、ちょっと待て!」
直ぐ様身を翻そうとしたミランダを、ガストンが慌てて止める。
「なに?」
「お前は行くな。シオンだけ行かせろ」
「シオンだけ!? それって大丈夫!?」
ミランダが背に跨がっている状態ならまだしも、飛竜であるシオンを単独で王都に飛ばせて本当に大丈夫だろうか? 逆に混乱を招いたりしないだろうか?
ミランダはその点を気にしていた。
「仕方あるまい。緊急事態だ」
「でも、それにしたって...」
ミランダはまだ渋っている。
「あ、それならこうしたらどうだ?」
ガストンはやおら立ち上がると、司令官室に掲げてある辺境伯家の紋章が入った旗を取り外した。
「この旗をシオンの首元に縛り付けたらいいんじゃないか? そうすればウチの遣いだってことに気付いて貰えるだろう?」
「そうね...それなら...」
ミランダもようやく納得したようだ。
「シオンを行かせたら、お前はすぐ『西の国』との国境に向かってくれ」
「分かったわ」
◇◇◇
「シオン、大丈夫? キツくない?」
「グオッ」
今、ミランダは辺境伯家の旗をシオンの首元に縛り付け終わったところだ。ついでにガストンが書いた手紙も一緒に括り付ける。
「王都に着いたら真っ直ぐ王宮に向かうのよ? 王宮にはママとそれから...マリウス殿下が居るはすだから」
マリウスの名を出す時、ミランダはちょっと言い辛そうにした。ああいった形で別れて来てしまったことを、少しだけ気にしていたからだ。
「グオッ」
「それじゃよろしくね?」
シオンを見送った後、ミランダは『西の国』との国境へと向かった。
◇◇◇
一方その頃、アマンダは国王リヒャルトの執務室を訪れていた。
「国王陛下、失礼致します」
「あぁ、アマンダ夫人か...何用だ?」
リヒャルトは少しお疲れ気味なご様子だった。
「クラウド殿下は完全に回復したと見て間違い無さそうです」
「そうか...それはなによりだ...ご苦労だったな...」
「あの、陛下...差し出がましいようですが、なにかございましたか?」
心配になったアマンダがそう問い掛けると、
「...実はな、改めて開く立太子の式典に招待を出した国の内、東と西の国が断りを入れて来おってな...」
リヒャルトは重い口を開いた。
司令官室に着いたミランダを労いながらも、ガストンは視線を上げることもせず、忙しそうになにやら書類を認め続けていた。
「話は聞いたわ、パパ。どうするつもり?」
「ちょっと待て...良し、これでいい」
ガストンは認めていた書類を便箋に入れた。
「ミランダ、この手紙を大至急、国王陛下に届けてくれ」
「分かったわ」
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直ぐ様身を翻そうとしたミランダを、ガストンが慌てて止める。
「なに?」
「お前は行くな。シオンだけ行かせろ」
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ミランダが背に跨がっている状態ならまだしも、飛竜であるシオンを単独で王都に飛ばせて本当に大丈夫だろうか? 逆に混乱を招いたりしないだろうか?
ミランダはその点を気にしていた。
「仕方あるまい。緊急事態だ」
「でも、それにしたって...」
ミランダはまだ渋っている。
「あ、それならこうしたらどうだ?」
ガストンはやおら立ち上がると、司令官室に掲げてある辺境伯家の紋章が入った旗を取り外した。
「この旗をシオンの首元に縛り付けたらいいんじゃないか? そうすればウチの遣いだってことに気付いて貰えるだろう?」
「そうね...それなら...」
ミランダもようやく納得したようだ。
「シオンを行かせたら、お前はすぐ『西の国』との国境に向かってくれ」
「分かったわ」
◇◇◇
「シオン、大丈夫? キツくない?」
「グオッ」
今、ミランダは辺境伯家の旗をシオンの首元に縛り付け終わったところだ。ついでにガストンが書いた手紙も一緒に括り付ける。
「王都に着いたら真っ直ぐ王宮に向かうのよ? 王宮にはママとそれから...マリウス殿下が居るはすだから」
マリウスの名を出す時、ミランダはちょっと言い辛そうにした。ああいった形で別れて来てしまったことを、少しだけ気にしていたからだ。
「グオッ」
「それじゃよろしくね?」
シオンを見送った後、ミランダは『西の国』との国境へと向かった。
◇◇◇
一方その頃、アマンダは国王リヒャルトの執務室を訪れていた。
「国王陛下、失礼致します」
「あぁ、アマンダ夫人か...何用だ?」
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「そうか...それはなによりだ...ご苦労だったな...」
「あの、陛下...差し出がましいようですが、なにかございましたか?」
心配になったアマンダがそう問い掛けると、
「...実はな、改めて開く立太子の式典に招待を出した国の内、東と西の国が断りを入れて来おってな...」
リヒャルトは重い口を開いた。
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