殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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「待て! そうなると、カーミラの手駒が王宮内に潜入していたってことになるのか!?」

 事態の深刻さに気付いたリヒャルトが真っ青になる。

「えぇ、もしかしたらカーミラ自身が」

「な、なんということだ...みすみす敵の潜入を許すとは...」

 リヒャルトは頭を抱えた。

「あ、そう言えば...」

 なにかに気付いたマリウスがおとがいに指を当てる。

「どうした? マリウス?」

「兄上の側付きのメイドが代わっていたように思います。確か以前は黒髪のメイドだったはずなのに、ここ最近は金髪のメイドになっていました」

「あ、確かに...」

 そう言われてミランダも思い出したようだ。そして口唇を噛んだ。メイドの顔をしっかりと見ていなかったからだ。

 もしあれがカーミラだったとしたら、いくら金髪のカツラを被っていたとしても、顔をちゃんと見ていれば気付けたはずだ。

「あぁ、それはきっと式典の準備のために増員された者かも知れないな...」

 リヒャルトはそう推測した。

「ちょっとよろしいですか、国王陛下?」

 ミランダが手を上げた。

「うん?」

「仮にも王宮に勤めるとなれば、身元が確かな者しか雇わないはずですよね?」

「もちろんだ。貴族家からの紹介状が無ければ雇うことはしない」

「紹介状...そんなものを一体どこから?...」

 ミランダは考え込んだ。

「ふ~む...」

 マリウスも首を捻った。実際は、カーミラに操られたリリアナが書いたものなのだが、さすがにそこまでは思考が辿り着かなかった。

「何はともあれ...ミランダ嬢、魔道士常駐の件は承知した。すぐに手配するとしよう。貴重なご意見感謝する」

「どういたしまして」

「では儂はクラウドの様子を見て来るとしよう。二人とも本当にご苦労だった」

 そう言ってリヒャルトは去って行った。残されたミランダとマリウスの二人は、なんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。

「さてと...俺も片付けを手伝うとするかな...」

 やがてマリウスは、未だに沢山の人々が右往左往している広場前を見渡しながらそう言った。

「あ、マリウス殿下。私も手伝いますよ」

 すかさずミランダが同調する。

「ミランダ、大丈夫か? カーミラと戦って疲れてないか?」

 マリウスはミランダを気遣かった。

「私は大丈夫です。マリウス殿下の方こそ大丈夫ですか? ボロボロになってますけど?」

「なあに、このくらい軽いもんさ。なにせ北の砦で散々鍛え上げられたからな」

 そう言って苦笑いを浮かべるマリウスの姿を、ミランダは眩しげに見詰めていた。
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