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 ミランダがカーミラにトドメを刺した直後のことだった。

「ウゥッ!」

 大貴族のお歴々を相手に戦っていたクラウドが、いきなり頭を抑えて踞った。そしてそれっきり動かなくなった。

 ほとんど同時に、昏睡状態だった近衛騎士団の団員達も、まるで糸が切れたマリオネットのように、急に動きを止めて倒れ込んだ。

 同じように、様子のおかしくなった民衆達の動きも止まった。王宮の広場前はようやく落ち着きを取り戻した。 

「ミランダ...やってくれたか...ありがとう...」

 そのことを確認したマリウスは、安心したように地面に大の字になって、疲労困憊し切った体をゆっくりと横たえた。


◇◇◇


「お屋形様! お嬢が! リリアナお嬢が目を覚ましました!」 

 時を同じくして、南の砦では興奮した衛生兵がライリーの元にすっ飛んで来て報告した。

「なに!? 本当か!? 今行く!」

 ライリーは書類仕事をほっぽり出してリリアナの寝室に急いだ。

「リリアナ! 大丈夫か!?」

「あれ!? 父上!? なんで私はここに...あ、痛たたたっ!」

 まだ寝惚け眼で状況を良く把握できていないリリアナは、痛む頭を抑えて呻いた。

「無理せんでいい! なにがあったのかは追々話してやるから! とにかく...無事で良かった...心配したんだぞ...」

 そう言ってライリーは、涙を流しながらリリアナを、愛する娘をしっかりと抱き締めた。

「えっ!? ち、父上!?」

 物心付いてから、実の父親に抱き締められたことなんて一度もなかったリリアナは、訳が分からず面食らっていた。とにかく厳しい父親で、リリアナには叱られた記憶しかなかったのだ。

 南の砦を守護する者として、ライリーはリリアナを幼い時からとにかくスパルタで鍛え上げた。その裏には、母親を早くに亡くしたリリアナの悲しみを、少しでも紛らわせてあげたいという親心もあったりした。

 そんなライリーも、実は自分の娘のことを心底心配していたということの表れであろう。リリアナを愛しそうに抱き締める様は、普通の父親の姿になっていた。

「グウゥゥゥッ!」

 そんな父娘の感動の場面を台無しにするような音が、リリアナの腹から盛大に鳴った。

「父上...お腹空いた...」

 リリアナは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、蚊の鳴くような声でそう囁いた。長いこと飲まず食わずだったのだから無理もない。

「ハハハッ! ハハハッ! そうか! そうか! 待ってろ! 今、ご馳走を用意してやるからな!」

 ライリーは泣き笑いのような表情を浮かべて、嬉しそうにリリアナの寝室を後にした。

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