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「えぇっ~...」

 マリウスは露骨にイヤだという表情を浮かべた。振りとはいえ、自分の婚約者が違う男、それも自分の兄と並び立つ姿を見させられるというのは、とてもじゃないが忍びなかったからだ。

 ましてや、出来る兄を持つ身というコンプレックスを抱えているのだから尚更だ。そして、二人が並んだ姿を想像してみたら、リリアナには申し訳ないがとってもお似合いの二人だと思ってしまった。

 これが逆の立場になったとして、自分とリリアナが並び立った時には、多分だがそれほどお似合いには見えないんじゃないかとか、そんな詮無いことまで考えてしまっていた。

「あのクラウド殿下、ちょっとよろしいでしょうか?」

 そんなマリウスとは対照的に、当のミランダ本人は至って冷静な面持ちだった。

「...あぁ、なんだ?」

「私とリリアナとでは髪色が全然違いますけど?」

「...あぁ、その点は心配無い...赤髪のカツラを用意しているから...遠目から見れば判別は難しいと思う...」

「カツラ...」

 するとミランダはなにやら考え込んだ。

「...クラウド殿下、カーミラの手配書にカツラを使用している可能性もあると追記した方が良いかも知れません。今は黒髪じゃなくて金髪とかになっているかも知れませんし」

 ...カシャン...

 その時、クラウド達のお茶を用意している金髪のメイドが、手元が狂ったのか食器を滑らせて微かな音を立てたのだが、話し合いに夢中になっていたクラウド達は気付かなかった。

 やがてそのメイドは、クラウド達の前にお茶を静かに置いて立ち去って行った。

「...あぁ、なるほど...分かった...すぐ手配しよう...それでミランダ...」

「替え玉の件でしたら謹んでお受けしますよ?」

「...済まない...ありがとう...」

 ホッと胸を撫で下ろしたクラウドは、渇き切った喉を潤すためにお茶を飲み干した。

 マリウスは憮然とした表情のままだった。


◇◇◇


「あ、危ないところだった...」

 クラウドの執務室を出たカーミラは額の汗を拭っていた。ミランダの鋭い指摘に思わず手元が狂った時はさすがに慌てた。なんとか事なきを得たが...

「やっぱりミランダは一番の要注意人物ね...気を付けないと...」

 ミランダに気付かれないよう、ちょっとだけ魅了の力を使ってクラウド付きのメイドになることは出来た。

 後はクラウドに出すお茶や食事に少しずつ魅了の力を注ぎ込めばいい。もちろんこれもミランダに気付かれないよう慎重に。

 作戦決行の日は近い。カーミラは一段と気を引き締めた。
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