殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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 その日、王都の正門にある検問所はごった返していた。来週に迫ったクラウドの立太子の式典を一目見ようと、国中から観光客が押し寄せていたからである。

 実際には抽選に通った者しか王宮には入れないので、クラウドの姿を全員が間近で見れることは無いのだが、遠目からでもいいから一目見たいと思う者は後を絶たなかった。

 そんな中、一際目を惹く一人の少女の姿があった。

「次の者、前へ」

 検問所の門番に促されて前に進んだその少女は、長い金髪を靡かせ真っ白なワンピースを身に纏い、清潔感溢れる清楚な感じを全身から醸し出していた。

「王都への来訪目的は?」

 門番は機械的に対応した。どうせ観光目当てだと思ったからだ。

「職探しに来ました」

「職探し?」

「はい、王宮で求人があると聞きましたので」

「あぁ、確かに」

 立太子の式典の準備で猫の手も借りたい状況だと聞く。門番はチラッとカーミラの人相書きに目をやった。目の前の少女は金髪なので、黒髪のカーミラとは似ても似付かない。

「良し、通っていいぞ。ただし、王宮で働くには貴族家からの紹介状が必須となるがな」

「心得ております。ありがとうございました」

 少女は爽やかな笑顔を残して検問所を後にした。


◇◇◇


 数刻後、少女は王都の職業斡旋所を訪れていた。 

「お待たせしました。え~と...お名前は...ミラさんですね? 王宮で働きたいとのことで間違いありませんか?」 

 担当官にそう聞かれた少女改めミラは、

「はい、間違いありません」

 とハッキリ答えた。

「貴族家からの紹介状はお持ちですか?」

「えぇ、こちらに」
 
 そう言ってミラは懐から紙を取り出した。

「フムフム、なるほど。南の砦を守護する辺境伯家の紹介ですか。問題無いようですね。王宮の担当者に連絡しておきますので、明日にでも...いや、出来れば今からすぐにでも王宮に向かってください。なにせ人手が足りなくて、てんやわんやの状態だそうですから」

「分かりました。ありがとうございます」

 職業斡旋所を出たミラはほくそ笑んだ。

「本当にチョロい種族だわ♪ 髪色と雰囲気をちょっと変えただけでコロッと騙されてくれるんだから♪ フフフ♪ 愉快♪愉快♪ これから思う存分、私の手の平の中で踊らせてあげるわ♪ せいぜい楽しませてちょうだいな♪」

 その口元には鋭い牙が見え隠れしていた。そう、もうお気付きの通り、このミラはカーミラが化けた姿なのだ。

 魔力を使って飛んで戻ったりしたら、忽ちミランダに見付かってしまう。そのために一計を案じたという訳だ。

 紹介状はもちろん、魅了で落としたリリアナに以前書かせたものだ。本人は覚えちゃいないだろうが。

 こうしてまんまとカーミラは、王宮への潜入に成功したのだった。
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