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「お屋形様! 蛮族共が攻め込んで来やがりました!」

「なに!? こんな時にか!?」

 先程、北の砦で起こったことのリプレイを見ているような状況が、ここ南の砦でも展開されていた。

 ライリーは、未だに目を覚まさないリリアナの様子を見に行くところだったが、踵を返して司令官室に戻った。

「クソッ! 蛮族共め! もう態勢を整えて来おったのか!」

「お屋形様! こちらはまだ迎撃の準備が整っておりません!」

 南の砦の兵士達の中には、カーミラの魅了による影響が残っていて注意力が散漫になっている者、あるいはリリアナのように眠り続けている者が少なからず居た。

「慌てるな! 儂が最前線に出て時間を稼ぐ! その間にとにかく動ける者は出陣の準備を急がせろ!」

「了解致しました!」

 ライリーは最前線へと向かいながら、

「ミランダ嬢、早いところカーミラを仕留めてくれよ...」

 と切に願っていた。


◇◇◇


「クラウド、邪魔するぞ?」

「えっ!? 父上!? なんでここに!?」

 クラウドは面食らった。それも無理はない。父親である国王リヒャルトが自分の執務室を訪れることなどまず無いのだから。

「バカ者! 国王陛下と呼ばんか! まだ公務中であろう!」

「し、失礼致しました...それで国王陛下、何用でございましょうか?」

「うむ、儂のところにも色々と報告は入って来ている。なにやらキナ臭いことになっているようだな? 魔族が絡んでいるとか?」

「えぇ、まぁ...でも首謀格の魔族は面が割れていますから、見付けるのは時間の問題だと思っております。なんとか立太子の式典までにはケリを付けて見せますよ」

 クラウドは、まるで自分にそう言い聞かせているかのように、根拠の無い強がりを口にした。実際にはまだなんの手掛かりも掴めていない状況なのだが...

「その式典のことだがな...この際、延期するというのはどうだ?」

「延期...ですか...」

「あぁ、魔族の狙いがなんなのかまだ不明だと報告にはあったが、十中八九そなたの式典を狙っているのは間違いなかろう。本当はもう、そなた自身も良く分かっているのではないか?」

「...」

 クラウドの沈黙が答えだった。

「そなたの婚約者もまだ目を覚まさないと聞く。そんな状態では立太子どころではなかろう? 少なくとも、魔族の件に片が付くまでは延期すべきではないか?」

 リヒャルトの言う通りだった。確かにこのような状況で式典を強行するのはリスクが高過ぎるだろう。

 だがそれでも、クラウドには譲れない気持ちがあった。
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