殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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 早速、三人は独自に動き出した。

「シオン、王都の外壁に沿ってゆっくり飛んで?」

「グオッ!」

 ミランダは空からカーミラの気配を探る。とはいっても、カーミラが魔力を使っていないと見付けようがないというのもまた事実だったりする。

 メイド喫茶で初めてカーミラの姿を見た時、ミランダは特に魔力を感知できなかった。ということはつまり、カーミラは常に魔力を放出しているという訳ではなく、ここぞという時に魔力を集中させているのだろう。

 そう、あのメイド喫茶で『美味しくな~れ♪』と呪文? を唱える時のように。ミランダとマリウスの席に接客しに来た女の子からは魔力を全く感じなかった。なのであれは単なる人間の女の子だったのだろう。

 だがカーミラは違う。一度カーミラが唱えたらそれはまさしく呪文となり、相手の心に魅了という名の種を植え付ける。メイド喫茶で飲み食いすればする程、より強くより深く魅了が根付いていくのだろう。

 リリアナが良い例だ。自分の仕事を放棄してまでカーミラを追って来る程にハマッたのだから、恐らくは相当飲み食いしているはずだ。

 そしてそれは、今もまだ眠り続けているという近衛騎士団員達も、きっと似たり寄ったりなのだろうと思われる。

 ミランダは半ば諦め気味に、そろそろ夕暮れが迫ろうとしている王都の町並みを当て所もなく捜索していた。


◇◇◇


 同じ頃、マリウスは近衛騎士団員達と王都の廃屋をしらみ潰しに捜索していた。人が隠れられそうな場所といえば、真っ先に思い浮かんだのがそれだったからだ。

 そしてマリウスはこの中で唯一、カーミラと面識があった。他の近衛騎士団員達は誰もカーミラの顔を直接見たことがない。カーミラに会ったことのある近衛騎士団員は、全て眠りに就いたままだからだ。

 指名手配されているので彼らもカーミラの似顔絵を見てはいるが、やはり面識があるのと無いのとでは精度に差が生じるだろう。

 という訳で、マリウスは先頭に立って捜索を指揮していた。

「フゥ...このエリアも外れか...」

 マリウスは王都の地図に×を付けながら、

「良し、次に行くぞ」

 と、全員に指示を下した。


◇◇◇


「アマンダ夫人、どうぞ。こちらです」

 一方その頃、アマンダは近衛騎士団の救護室に来ていた。営倉にぶち込まれていた例の近衛騎士団員達は、全員がここに運ばれていた。

「こんなに居るんですか!?」

 アマンダは目を丸くした。なぜならそこには、約50名ほどの近衛騎士団員が所狭しと床に寝かせられていたからだ。

「はい...数が多いのでベッドがとても足りず、やむなくベッドを全て取り外して床に寝かせるしかなかったんです...」

 案内してくれた衛生兵が恐縮しながらそう言った。まるで野戦病院のような有り様に、アマンダは絶句するしかなかった。
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