殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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 また時は少し遡る。

「グオッ! グオッ!」

「うん!? シオンか!?」

 ケルベロスのポチを休ませるため、一人で訓練に勤しんでいたマリウスの頭上に、飛竜のシオンが大きな翼を広げて飛んで来ていた。

 なにやら手紙を咥えている。

「もしかしてミランダからの手紙か? 届けてくれてご苦労さん」

 マリウスはシオンの労を労った後、手紙を読んで渋い顔になった。そしてやおらフルアーマーを脱ぎ捨てて、司令官であるガストンの元へ走った。


◇◇◇


「ガストン卿! 今、シオンがこの手紙を届けてくれた!」

 マリウスが司令官室に着くと、そこにはガストンと妻であるアマンダも一緒に居た。どうやらなにか打ち合わせをしていたらしい。

「なんですと!? ミランダからですか!?」

「あぁっ!」

 マリウスが手紙を渡すと、すぐさま夫婦揃って手紙に目を通した。

「なんてこと...リリアナちゃんが...」

 アマンダが絶句する。

「...アマンダ、お前が治療に向かってはどうだ?」

 ガストンはしばし考えてからそう言った。 

「ミランダでも無理なら私でも無理よ...」

「そうか...」

 夫婦は揃って俯いた。

「ガストン卿、例のメイド喫茶に勤めていた連中のその後の足取りは?」

 気を取り直すようにマリウスがそう言った。

「未だに掴めていません...一体どこに雲隠れしたのやら...」

「そうか...あのカーミラって女が怪しいと踏んでいたんだがな...」

 ミランダの忠告を受け、すぐにメイド喫茶へ営業停止の旨を伝えに行ったのだが、時既に遅しで中はもぬけの殻だった。

 従業員達も姿を消した。マリウスが怪しいと睨んだカーミラも。

「引き続き捜索は続けていますが、どうも既にこの地を離れたのではないかと思われますな...」 

「かも知れないな...だとすれば一体どこに!?」

 マリウスの問いに答えられる者は誰も居なかった。

「...考えていても仕方ありませんね。あなた、ミランダにこちらの近況を教えるために手紙を認めてシオンに運んで貰いましょう」

「あぁ、分かった」

「殿下は王都に向かう準備を。ポチに乗って行きますんで、そろそろ出発しないと間に合わなくなります」

「了解した」

 マリウスはすくに身を翻して司令官室を後にした。

「な、なぁ...本当に二人っきりで行くのか!?」

 マリウスが居なくなった途端、ガストンが情けない顔になってそう言った。

「今更なに言ってんのよ? もう決まったことじゃないの?」

「で、でもなぁ...若い男と二人っきりっていうのは...」

「なによ? 自分の妻が信用できないって言うの?」

「い、いや、そういう意味じゃなくて...」

 ガストンの苦悩は続く。
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