殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

真理亜

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 近衛騎士団長は頭を抱えていた。

「おいっ! 貴様ら! なにをやっとるっ! 隊列が乱れておるではないかっ! これでもう何度目だ!? たるんどるぞっ! しっかりせんかぁ!」

 王都にある近衛騎士団の本部では、来週に控えた王太子クラウドの立太子の式典における行軍のための訓練が佳境を迎えていた。

 だが、このように訓練に集中できずミスを連発する騎士団員達が後を絶たなかった。

「騎士団長! 報告します!」

 そこに王宮の警備を担当している騎士団員が現れた。

「どうした?」

「また無断欠勤者が出まして...」

「ハァ...」

 騎士団長はため息を吐くしかなかった。報告しに来た騎士団員が『また』と言った通り、ここのところ無断で自らの当番日の業務を放棄し、遊び呆けている騎士団員が相次いでいたのだった。

「一体なにが起こっているんだ...」

 その騎士団員達をとっ捕まえて事情を聞き出そうとしても、心ここにあらずといった感じでなにを聞いても要領を得ない。こんなことがずっと続いたら、ヘタすれば近衛騎士団が崩壊してしまう恐れすらある。

「取り敢えず、そいつらはいつものように営倉に放り込んでおけ...俺も後から行く...」

 近衛騎士団長は疲労困憊といった表情を浮かべながらそう言うしかなかった。


◇◇◇


 一方その頃、クラウドは自分の執務室で書類仕事を片付けながら、落ち着きなく窓の外の方にチラチラと視線を送っていた。

 自身の婚約者であるリリアナがなかなかやって来ないからだ。来週に迫った立太子の式典に関する打ち合わせなどがあるため、遅くとも先週の内には王都に来るようにと連絡しておいたはずなのだが...

「もしかしたら南の砦でなにかあったのか...」

 なにも無ければ、リリアナならファルファルに乗ってひとっ飛びでやって来るはずだ。

 心配になったクラウドは、伝書鳩ならぬ伝書鷹のハヤブサを飛ばしたり、早馬を走らせたりして、なんとかリリアナと連絡を取ろうとしたのだが、今のところはなしのつぶて状態であった。

 そうなると残る可能性は、リリアナが南の砦を離れられない状況に陥ったということになる。

「蛮族どもがまた動き始めたってことなのか...」

 約三ヶ月前の魔王兄弟との戦いで、魔族側に与した蛮族側にも多大なダメージを与えたはずだ。なので、こんな短期間の内に戦力を整えて来るとは思わなかったが、

「見通しが甘かったのかも知れないな...」

 優れた戦略者らしく、クラウドはそんな風に分析していた。 

「グエッ! グエッ!」

 すると窓の外に巨大な鳥が姿を現した。

「ファルファルッ!」

 クラウドはそう叫んで急ぎバルコニーへと駆け寄った。バルコニーに着地したファルファルは手紙を咥えていた。
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