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「美味しくなーれ♪ 美味しくなーれ♪...」

 二人の隣のテーブルでも同じような光景が繰り広げられていた。ただしちょっと違うのは、隣の客が注文したのはオムライスで、メイドがハートを描いているのはケチャップであるという点だった。

「...オムライスがこの店の一番人気メニューみたいですね...」

 メニュー表を覗き込んでいたミランダが静かにそう告げた。

「...あぁ、確かに...見映えはだけ良く見えるよな...」

 マリウスは隣のテーブルを覗き込んで納得した。

「...注文してみますか?...」

「...いや、いい...食欲ない...」

「...ですよね...」

 店の雰囲気に終始圧倒されっ放しの二人は、取り敢えずコーヒーを飲んだらさっさと帰ろうと思っていた。

「...結局さ、こういう店って俺達みたいに本物のメイドを雇ってるような者は来ない方が良いってことなんだろうな...」

 改めて店内を見渡したマリウスがそう結論付けた。

「...確かにそうかも知れませんね...可愛い女の子に『ご主人様』呼ばわりされてデレデレと鼻の下を伸ばしている男達も、『お嬢様』呼びされて得意気な顔を浮かべている女達も、結局のところはそういう『プレイ』を楽しんでいるだけであって、本物のメイドを求めてる訳じゃないってことですもんね...」

 同じように店内を見渡したミランダもそう結論付けた。

「...帰ろうか...」

「...えぇ...」

 二人が席を立とうとした時、

「おぉ~! 一番人気のカーミラちゃんだ~!」

「キャアアアッ~! 可愛い~!」

「待ってたよ~! 指名! 指名するぞ~! うぉ~!」

 俄に店内が騒がしくなった。何事かと二人が店の奥に目を向けると、そこに居たのは明らかに他の店員とは違うコスチュームを身に纏った女だった。

 真っ黒な髪を腰まで伸ばし、髪色と同じ真っ黒な皮のボンテージを身に付けている。胸元は大胆に開き、足は太ももまで露になっている。唇は艶かしい真っ赤な口紅で彩られ、目元は長い付け睫で大きな黒い瞳を強調している。

「はぁ~い♪ 皆さ~ん♪ 今宵も当店にご来店いただきまして誠にありがとうございま~す♪ どうぞ心行くまでお楽しみくださいませ~♪」

 カーミラと呼ばれたその女は、くねくねと腰を動かしながら扇情的な視線を店内中に向けた。

「カーミラちゃ~ん! こっち向いて~!」

「指名! 指名するぞ! カーミラちゃん!」

「おい! 待て! 先に指名したのは俺だぞ! 抜け駆けすんじゃねぇ!」

「なんだとぉ!」

「なんだぁ!」

 店内が一気に殺伐とした雰囲気と化した。二人はまたもや圧倒されてただただ呆然とするだけだった。
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