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 開店早々にも関わらず、店内はほぼ満席状態だ。確かに評判になっているというだけのことはある。

「意外にカップルが多いんだな...」

「えぇ、私達も含めて...それと一人で来ているお客はほとんどが男性ですね...」

「確かに...みんな若そうに見えるから、恐らくは独身男性なんだろうな...」

「店員がみんな若くて可愛い女の子ばっかりですもんね...」

 ミランダも店内を見渡し、二人して感想を述べ合っていた。

「なぁ、ちょっと気になったんだが、お嬢様の対義語がご主人様ってあれおかしくないか?」

「あぁ、確かに...それだと親娘になっちゃいますよね? なにが正しいんだろ? 旦那様とかですか?」

「いやそれだと夫婦になっちゃうだろ? お嬢様の対義語って言ったらお坊っちゃまとかになるんじゃないか?」

「なるほど...殿下にはピッタリですね?」

「皮肉はやめてくれないか...」

 北の砦に来るまで散々甘やかされて育ったマリウスは、確かにお坊っちゃまだったと言わざるを得ないだろう。

「大変お待たせ致しました~♪ こちらが可愛いメイドがブレンドしたコーヒーLoveLoveキュンキュンスペシャルになりまーす♪」

 その時、先ほど応対したセレナという名前の店員がコーヒーを二人分運んで来た。見た目は普通のコーヒーと変わらない。カップに可愛いらしいネコの姿が描かれているのを除いて。

「それでは~♪ これから~♪ コーヒーが美味しくなーる呪文を掛けちゃいますね~♪」

 そう言ってセレナはミルクピッチャーを手に取った。

「美味しくなーれ♪ 美味しくなーれ♪ Love♪ Love♪ キュンキュン♪ キャルルルーン♪ チュ♪ チュ♪」

 セレナはそんな呪文? を呟きながら、ミルクピッチャーを器用に回し二人のコーヒーに注いで行った。するとコーヒーの表面にミルクでハートマークが浮かび上がった。

「ご注文は以上でよろしかったでしょうか~? ではでは~♪ ごゆっくりお寛ぎくださいませ~♪ 担当は私、セレナがお届けしました~♪ キュンキュン♪ キャハ♪」

『...』

 またしても怒涛のような展開に圧倒された二人は、ただただ無言を貫くのみだった。


◇◇◇


「...普通のコーヒーだよな?...」

「...えぇ、至って普通の...なんの変哲もない...」
 
 それが、セレナの運んで来たコーヒーを飲んだ二人の感想だった。

「...呪文...とか言ってたけど?...」

「...ハハハ...あんな呪文で魔法が掛かるなら、我々魔道士は苦労したりしませんよ...」

 ミランダは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
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