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 ミランダはすぐ北の砦に戻った。

「殿下、生きてますか?」

「あう...おぉう...」

 マリウスはベッドからなんとか起き上がって呻いた。

「ちょっとお願いがあるんですよ。お使いを頼まれてくれません?」

「お、お使いとは!?」

 マリウスが訝し気に問い返す。

「実はかくかくしかじかで...」

 ミランダは事の次第を説明した。

「...という訳で、恐らく魔王がそっちに向かうと思うので、注意するようリリアナに伝えて貰えません?」

「ど、どうやって!?」

「そりゃシオンに乗ってひとっ飛びで」

 ミランダは当然とばかりにそう言った。

「お、俺一人で!?」

「当然でしょう? 私は砦を離れる訳には行かないんだから」

 ミランダはそんなことも分からないなんてバカじゃないの? と言わんばかりに呆れ顔でそう言った。

「わ、分かったよ...あ、痛ててて...」

 マリウスは渋々といった感じで筋肉痛で痛む体をベッドから持ち上げた。

「伝言だけ伝えたらすぐ戻って来るんですよ? ママと乳繰り合ってる暇はありませんからね?」
 
 すかさずミランダは釘を刺した。

「わ、分かってるよ...」

「まぁもっとも、さすがにそんな元気はありませんか。とにかく頼みましたよ?」

「あ、あぁ...」

 こうしてマリウスの初めてのお使いが決定した。


◇◇◇


 一方その頃、南の砦では北の砦との合同軍事訓練が佳境を迎えていた。

「魔道部隊、前へ!」

「迎撃部隊、遅れるな!」

「支援部隊、魔道部隊の援護に回れ!」

「いいぞ! 中々良い動きだ!」

 実戦を想定しての訓練は熱を帯びていた。蛮族と魔族との合同軍と戦う前に、お互いの呼吸を合わせておくのは必須であった。

「おじ様、おば様、これならいつでもイケそうね!」

「見事な連携だ! とても初めて組んだとは思えない!」

 リリアナとクラウドが満面の笑みを浮かべてそう言った。

「あぁ、そうだな」
   
 ガストンも満足気に頷いた。

「私は支援部隊の方に回るわね」

 アマンダも顔を綻ばせてそう言った。

「おば様、お願いね!」

「うん!? あれはなんだ!?」

 その時、クラウドが上空を仰いで指差した。

「あれは...もしかしてシオン!?」

 クラウドよりも視力が高いリリアナが目を眇めてそう言った。

「グオッ!」

 シオンで間違いなかった。

「一体どうしたの、シオン?」

 リリアナはビックリしながら近くに降り立ったシオンの側に駆け寄った。そして思わず目を丸くした。

「えっ!? マリウス殿下!?」

 そこには目を回して気絶しているマリウスが、シオンの背中にロープで括り付けられていたのだった。
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