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「良しと。こんな所でしょうかね。殿下、他にどこか痛い所とかあります?」

 マリウスの下半身を治療し終えたアマンダがそう尋ねる。

「い、いえ、も、もう大丈夫です...」

 マリウスは蚊の鳴くような小さな声でそう答えた。なぜなら治療の間ずっと、ガストンから鬼のような視線の圧を掛けられ、精神的に疲弊してしまったからだ。下半身の一部が元気になるどころの話ではなかった。

「それは良かったです。今日は一日休息を取って下さいね?」

「は、はい、わ、分かりました...あ、あの、アマンダ夫人、ありがとうございました...」

 マリウスは平身低頭でお礼を言った。

「どういたしまして。ほら、あなた。行くわよ?」

「お、おい! ま、待ってくれ、アマンダ!」

 アマンダはガストンの返事も聞かず部屋を出て行ってしまった。一人残されたマリウスは、先程までのアマンダの温もりと芳しい香りを思い出し悶々とするのだった。


◇◇◇


 一方その頃、ミランダ達は暇を持て余していた。いくら魔族軍といえど、昨日の今日ではさすがに数を揃えられなかったのか、いつもより数はかなり少な目で散発的な戦いに終始している。

 これではミランダ達の出番はほとんどなかった。特に大出力の魔法を駆使するミランダは手持ち無沙汰状態だ。敵が密集してないと威力が半減してしまうからだ。

 リリアナとクラウドは局地戦の方が力を発揮するタイプとはいえ、加勢するまでもなく辺境伯軍の精鋭達が早々に魔族軍を蹴散らしてしまうので、こちらも出番があんまりない。

「暇ね...」

 ミランダがポツリと呟くと、

「トランプでもやる?」

 リリアナがすかさず応じる。

「持って来てんの!?」

 ミランダは呆れたような目を向ける。

「まぁね。だって戦線が膠着して待ち時間が長い時ってあるじゃない? そんな時の時間潰し用に色々と持って来てるわよ? UNOもあるしチェスも将棋もあるわよ?」

 リリアナはなんでもないとばかりにあっけらかんとそう答えた。

「まさか盤も持って来てんの!?」

 ミランダは呆れを通り越して驚いてしまった。チェス盤も将棋盤も嵩張るなんてもんじゃないだろうに。

「いやさすがに盤は紙に書いたヤツだけどね。駒はちゃんとしたのを持って来てるわよ?」

「ハァ...クラウド殿下。南の砦はいつもこんな感じなんですか?」

 ミランダは大きなため息を一つ吐いてクラウドに尋ねる。

「いやいや、さすがにこんなのリリアナの他には誰も持って来ないよ」

 クラウドは苦笑しながらそう言った。
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