殿下、人違いです。殿下の婚約者はその人ではありません

22

「お帰り。早かったな?」

　砦に戻ったミランダ達をガストンが出迎えた。

「えぇ、まぁ...」

　ミランダはちょっと口ごもった。

「魔王と話は出来たのか?」

「それがね...話をする間も無くリリアナが蹴り飛ばしちゃって..」

「それはまた...」

　ガストンは苦笑するしかなかった。

「ごめんなさい、おじ様...今日も泊めて貰って構わない?」

　リリアナは申し訳無さそうに手を合わせる。

「それは構わんが、南の砦の方は本当に大丈夫なのか?」

　ガストンが心配そうに尋ねる。

「ファルファルに手紙を届けて貰うことにするわ」

「そうか、なら安心だな。ウチならいつまで泊まっていっても構わんぞ?」

「ありがとう、おじ様!」

　リリアナはホッとしたように笑みを浮かべる。

「ところでガストン卿、マリウスのヤツは今どこに?」

　クラウドが辺りを見回しながら尋ねる。

「今日は行軍訓練をさせているんですが...あぁ、やっと来たみたいですな」

　ガストンの指差す方を見ると、全身にフルアーマーを装備した兵士が一人、ノタノタとよろめきながらこちらに向かって歩いて来る姿が目に入った。

「も、もうダメ...し、死ぬ...」

　その兵士はこちらに辿り着く寸前でパタッと倒れたまま起き上がれないようだ。

「だらしないな全く...たかだか10km行軍させたくらいで...」

　そう言ってガストンは頭を振った。

「ハァ...しょうがないヤツだ...おい、マリウス。しっかりしろ」

　クラウドがマリウスの側に寄って小突いた。

「ふぇっ!?　あ、兄上!?　な、なんでここに!?　魔王に会いに行ったんじゃ!?」

　兜の隙間から驚いたようなマリウスの声が上がった。

「たった今帰って来たところだ。それよりもマリウス、その程度の訓練でそんな様とは情けないぞ。俺が鍛え直してやろう。ガストン卿、構わないだろうか?」

「えぇ、どうぞお好きに」

「ありがとう」

　そう言ってクラウドは、フルアーマー装備のマリウスを軽々と引き摺って行った。

「ちょ、ちょっと待って兄上!　少しくらい休ませて!」

　マリウスは抵抗しながら必死に訴えた。

「引き摺られている間に休んでおけ」

「それちっとも休めないからぁ～!」

　マリウスの悲鳴が空しく辺りに響いた。

「なんだかんだ言っても、あの二人って仲良いわよね?　ああいうの見てるとやっぱり兄弟なんだなぁってしみじみ思うわ」

　リリアナがボソッとミランダに囁いた。

「果たしてあれは仲が良いって言えるのかしらね...」

　ミランダは苦笑しながらそう言った。