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 ミランダの説明は続く。

「クラウド殿下は何度も南の砦を訪れては、蛮族共の討伐に参加されていますよ? なんでも一騎当千の働きをなさるとか。さすがは王族の誇る剣士だと噂になっていますよ?」

「全然知らなかった...」

 居た堪れなくなったマリウスは目を伏せてしまった。

「中でも去年参加された討伐は語り草になっているとか。リリアナと二人、最前線で敵の攻勢を撥ね除けたお陰で戦線の崩壊を防いだって聞いてます」

「そんなことまで...」

 マリウスはミランダの言葉にますます小さくなって縮こまってしまった。

「あのお二人が結婚してクラウド殿下が王位を継げば王国は安泰ですねぇ」

「...そうだな...」

 全て悟ったような顔でマリウスは頷いた。そんなことは今更言われなくても十分に理解している。なぜなら幼い頃から散々聞かされて来た言葉だからだ。

『クラウド殿下なら安心だ。将来は良き王になることだろう』

 周りからこのように言われることが、幼いマリウスにとってどれだけ残酷なものになるのか、それを本当に理解して話している人など誰も居なかった。

 幼い頃から厳しい現実を突き付けられ、ずっと兄の背中を見詰め続ける毎日。なにをどう頑張ったって兄には到底敵わない。努力したって王に成れることはない。

 そう悟った瞬間、マリウスは努力することを放棄した。勉学も剣術もサボッて遊興に耽って行った。

 そのせいであんなハニートラップに簡単に引っ掛かってしまった。なんのことはない。全ては兄に嫉妬した故に自らが招いた結果だ。全く以て自業自得ということである。

 マリウスは本当に穴があったら入りたくなった。

「まぁでも、そのお陰でマリウス殿下は心置きなく婿入り出来る訳ですから。逆にその方が良かったんじゃないんですか?」

「えっ!? 婿入り!?」

 マリウスは寝耳に水といった表情を浮かべた。

「それすら知らなかったんですか...」

 ミランダは更に呆れたような表情になった。

「リリアナは王家に嫁入りしますが、マリウス殿下は王家から婿に出されるんですよ」

「知らなかった...てっきりミランダが俺の所に嫁入りするもんだとばかり...」

「ハァ...」

 ミランダは大きなため息を一つ吐いた後、

「いいですか、殿下。私が最前線から離れたら北の砦は陥落しますよ? 魔族が攻め上がって来てもいいんですか? 国が潰されますよ?」

「えっ!? ま、まさかそんな...」

 ミランダがそこまで重要な人物だったなんて知らなかったマリウスは、慌てて目を白黒させた。
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