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「う、ウソだ! ウソを申すな! 俺は確かに父上から言われたんだ! お前の婚約者は辺境伯家の娘だと! 貴様以外誰が居ると言うんだ!」

 マリウスが唾を吐き散らしながら訴える。

「マリウス、お前は本当に呆れたヤツだな。御前会議の時居眠りでもしてたのか?」

「あ、兄上!?」

 そんなマリウスを冷ややかな目で見下しながら、リリアナの肩を抱くようにして現れたのは、マリウスの兄に当たる第一王子のクラウドだった。

「リリアナは俺の婚約者だ。ちゃんと聞いてりゃ人違いなんて起こらないはずだぞ? それにお前、リリアナがこの学園に通ってなかったことも知らなかったそうじゃないか? 婚約者を蔑ろにしてるからそんなことになるんだ」

「うぐっ! そ、それは...」

 クラウドの言う通りなのでマリウスはグウの音も出なかった。そもそもマリウスは、親である国王が勝手に決めてしまった婚約に反発し、相手の釣書さえ見ようとしなかった。会おうともしなかった。

 つまり婚約者の名前も顔も知らない訳だ。だからこんな目に遭っているのは、ある意味自業自得でもあるということになる。

「じゃ、じゃあ俺の婚約者は一体誰なんだ!?」

 マリウスが頭を抱えた時、

「あの~...」

 と控え目な声が壁の花になっている令嬢の一人から上がった。その場に居た全員がその令嬢に注目する。そして全員が息を呑んだ。

 豪奢な黄金の髪は肩のあたりで軽くウェーブを巻き、青い海を思わせる瞳は麗しく輝き、ピンっと通った鼻筋にピンクに色付いた小さめの唇、マーメイドラインの真っ赤なドレスを颯爽と着こなすプロポーションは完璧で、細く括れたウエスト、豊満なバスト、キュっと引き締まったヒップと、美の女神さえ嫉妬して裸足で逃げ出すような圧倒的な存在感を放っていた。

「殿下の婚約者は私です。通称『北の砦』を守護する辺境伯家が娘、ミランダと申します。お初にお目に掛かります」

 そう言って見事なカーテシーを披露した。

 実はこのセントラル王国には辺境と呼ばれる地域が二つ存在する。一つ目がリリアナの辺境伯家が治める南の辺境で、二つ目がミランダの辺境伯家が治める北の辺境である。

 しばし時が止まったような感覚を覚えたマリウスは、ハッと我に返るとミランダの姿を頭の天辺から足の爪先までじっくりと眺めた後、

「なんと美しい...そなたが俺の婚約者なのを嬉しく思うぞ...」

 そうしみじみと呟いたのだった。だがそれに対してミランダは、

「いやいや、さっき婚約を破棄するっておっしゃいましたよね? 謹んでお受けしますよ」

 突き放すようにそう答えたのだった。

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