1 / 7
1
しおりを挟む
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」
ここは王立学園の大講堂。今日は明日から始まる夏休みを前に、恒例の舞踏会が開催されている。学園長が開始の挨拶をする前に、この国の王太子であるカインが演壇に立ち、自身の婚約者である公爵令嬢のアリンを鬼のような目で睨み付けていた。
その傍らには、可憐で小動物のように庇護欲をかき立てる儚げな容姿の男爵令嬢サーシャの姿があった。その周りをまるで彼女を守るナイトのように、カインの取り巻き達四人が囲んでいる。集まった他の生徒達はその光景を興味津々といった感じで眺めていた。
「えぇ、突き落としましたが、それが何か?」
問われたアリンは何事もなかったかのようにそう答えた。
「な、何かだとぉ~!? 貴様ぁ! サーシャを殺す気か!?」
カインは怒髪天を衝く程の怒りを込めてそう言った。
「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」
アリンはまたもサラッと返す。
「き、貴様ぁ!? それでも人間か!? 人の心は無いのか!?」
カインの顔は怒りで真っ赤に染まっている。
「だってその女、人の言葉が通じないんですもん。獣と一緒ですよ。害獣を駆除して何が悪いんですか?」
アリンは心底不思議そうな顔をした。
「言葉が通じない!? それはどういう意味だ!?」
そこで初めてカインが訝しげな表情になった。
「言葉通りの意味です。私、何度も何度も何度も何度も何度もその女に言いました『婚約者の居る男性に妄りに触れてはならない』『婚約者の居る男性のことを軽々しく愛称で呼んではならない』『婚約者の居る男性に馴れ馴れしく話し掛けてはならない』と」
そこでアリンはいったん言葉を切った。そして更に続ける。
「それに対してその女の答えはいつも決まって『酷い! 私が身分の低い男爵家の娘だからそんな意地悪なこと言うんですね!』そして泣き出す。このパターンの繰り返しでした。これのどこに言葉の通じる要素があります? 狙ったように婚約者の居る男性にばかり粉を掛けるような害獣を、これ以上野放しにしておけませんので駆除しようと思ったのですが、階段から落ちたくらいじゃ死なないとは。やっぱり中々に強かな女ですわね」
そう言われてカインは鼻白んだ。もしかしたら心当たりがあるのかも知れない。サーシャに確認しようと口を開き掛けた時だった。
「アリン様、害獣というより病原菌といった方が正しいかも知れませんわよ?」
そう言ってアリンの後ろから現れたのは、辺境伯令嬢のイリンだった。ちなみにカインの取り巻きの一人、宰相子息の公爵子息キインの婚約者である。
ここは王立学園の大講堂。今日は明日から始まる夏休みを前に、恒例の舞踏会が開催されている。学園長が開始の挨拶をする前に、この国の王太子であるカインが演壇に立ち、自身の婚約者である公爵令嬢のアリンを鬼のような目で睨み付けていた。
その傍らには、可憐で小動物のように庇護欲をかき立てる儚げな容姿の男爵令嬢サーシャの姿があった。その周りをまるで彼女を守るナイトのように、カインの取り巻き達四人が囲んでいる。集まった他の生徒達はその光景を興味津々といった感じで眺めていた。
「えぇ、突き落としましたが、それが何か?」
問われたアリンは何事もなかったかのようにそう答えた。
「な、何かだとぉ~!? 貴様ぁ! サーシャを殺す気か!?」
カインは怒髪天を衝く程の怒りを込めてそう言った。
「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」
アリンはまたもサラッと返す。
「き、貴様ぁ!? それでも人間か!? 人の心は無いのか!?」
カインの顔は怒りで真っ赤に染まっている。
「だってその女、人の言葉が通じないんですもん。獣と一緒ですよ。害獣を駆除して何が悪いんですか?」
アリンは心底不思議そうな顔をした。
「言葉が通じない!? それはどういう意味だ!?」
そこで初めてカインが訝しげな表情になった。
「言葉通りの意味です。私、何度も何度も何度も何度も何度もその女に言いました『婚約者の居る男性に妄りに触れてはならない』『婚約者の居る男性のことを軽々しく愛称で呼んではならない』『婚約者の居る男性に馴れ馴れしく話し掛けてはならない』と」
そこでアリンはいったん言葉を切った。そして更に続ける。
「それに対してその女の答えはいつも決まって『酷い! 私が身分の低い男爵家の娘だからそんな意地悪なこと言うんですね!』そして泣き出す。このパターンの繰り返しでした。これのどこに言葉の通じる要素があります? 狙ったように婚約者の居る男性にばかり粉を掛けるような害獣を、これ以上野放しにしておけませんので駆除しようと思ったのですが、階段から落ちたくらいじゃ死なないとは。やっぱり中々に強かな女ですわね」
そう言われてカインは鼻白んだ。もしかしたら心当たりがあるのかも知れない。サーシャに確認しようと口を開き掛けた時だった。
「アリン様、害獣というより病原菌といった方が正しいかも知れませんわよ?」
そう言ってアリンの後ろから現れたのは、辺境伯令嬢のイリンだった。ちなみにカインの取り巻きの一人、宰相子息の公爵子息キインの婚約者である。
359
お気に入りに追加
2,777
あなたにおすすめの小説
3歳児にも劣る淑女(笑)
章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。
男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。
その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。
カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^)
ほんの思い付きの1場面的な小噺。
王女以外の固有名詞を無くしました。
元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。
誰でもよいのであれば、私でなくてもよろしいですよね?
miyumeri
恋愛
「まぁ、婚約者なんてそれなりの家格と財産があればだれでもよかったんだよ。」
2か月前に婚約した彼は、そう友人たちと談笑していた。
そうですか、誰でもいいんですね。だったら、私でなくてもよいですよね?
最初、この馬鹿子息を主人公に書いていたのですが
なんだか、先にこのお嬢様のお話を書いたほうが
彼の心象を表現しやすいような気がして、急遽こちらを先に
投稿いたしました。来週お馬鹿君のストーリーを投稿させていただきます。
お読みいただければ幸いです。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?
新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる