聖女である私を追放する? 別に構いませんが退職金はしっかり払って貰いますからね?

真理亜

文字の大きさ
上 下
11 / 12

11

しおりを挟む
「これはこれは王太子殿下、いや今は国王陛下でしたな。ようこそ、こんな辺鄙な所に」

 フリードリヒを出迎えたのは、幼子を抱いたシンだった。

「お、おい、シン。こ、これはどういうことだ!?」

 フリードリヒが驚くのも無理は無い。そこにはバッドランドの一部とはとても思えない光景が広がっていたからだ。

 広大な農園には様々な野菜や果物が実っている。その隣では牛が何頭も放牧されていて、鶏と一緒に草を食んでいる。馬も何頭か居るようだ。

 そしてシンが出て来た家は巨大なログハウス仕立てになっていた。更に驚くことに、そこで働いているのは年端も行かない子供達ばかりだった。

「ここは避難小屋ですよ」

「避難小屋!?」

「えぇ、俺やアンジュのように親から見放された子供達を保護する施設です。アンジュはこれを作るために必死で金を貯めていたんですよ。退職金に拘ったのもそのためです。一人でも多くの子供を救いたい。自分のような酷い目に遭って欲しくない。その一心で」

「そうだったのか...」

 フリードリヒはやっとアンジュの真意に気付いて神妙な顔になった。

「このなにもない荒れ地をここまで発展させるのは大変でしたが、子供達がとにかく頑張ってくれましてね。今はご覧の通りの状態になりました。自給自足が可能になったんですよ」

「そうなのか...見事なものだな...ちなみにその子は?」

 フリードリヒはシンが抱いている子供がさっきから気になっていた。

「この子はアンジェリーナ。俺とアンジュの子です。そろそろ生後2ヶ月になります」

「アンジュの子...」

「えぇ、女の子です。ママ似で可愛いでしょ?」

「あ、あぁ、そうだな...」

 フリードリヒは複雑な思いでそう呟いた。

「それで本日はどのようなご用で?」

「あ、あぁ、それなんだが...アンジュに話があってな...会わせてくれないだろうか?」

 フリードリヒは歯切れ悪くそう言った。

「構いませんよ。ちょうど今から行くところでしたし。ご案内しましょう」

 そう言ってシンは歩き出した。なぜか子供と一緒に花束まで抱えている。訝しく思いながらもフリードリヒは黙って付いて行った。

「どうぞ。こちらですよ」

 シンに案内された先は...

 小さなお墓の前だった...

 フリードリヒは目を見張った。

「今日は2回目の月命日でしてね。ほら、アンジェリーナ。ママだぞ? ちゃんとご挨拶しなさい?」

 フリードリヒは信じられないといった様子で、そんなシン親娘の様子を呆然と見詰めるのみだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

強欲な妹が姉の全てを奪おうと思ったら全てを失った話

桃瀬さら
恋愛
幼い頃、母が言った。 「よく見ていなさい。将来、全て貴方の物になるのよ」 母の言葉は本当だった。姉の周りから人はいなくなり、みんな私に優しくしてくれる。 何不自由ない生活、宝石、ドレスを手に入れた。惨めな姉に残ったのは婚約者だけ。 私は姉の全てを奪いたかった。 それなのに、どうして私はこんな目にあっているの? 姉の全てを奪うつもりが全てを失った妹の話。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
第一皇太子のセヴラン殿下の誕生パーティーの真っ最中に、突然ノエリア令嬢に対する嫌がらせの濡れ衣を着せられたシリル。 シリルの話をろくに聞かないまま、婚約者だった第二皇太子ガイラスは婚約破棄を言い渡す。 その横にはたったいまシリルを陥れようとしているノエリア令嬢が並んでいた。 そんな2人の姿が思わず溢れた涙でどんどんぼやけていく……。 ざまぁ展開のハピエンです。

香りの聖女と婚約破棄

秋津冴
恋愛
「近寄るな、お前は臭いから」  ゼダ伯爵令嬢エヴァは婚約者にいつもそう言われ、傷心を抱えていた。  婚約者の第三王子マシューは、臭いを理由に彼女との婚約を破棄しようとする。 「エヴァ、いつも告げてきたが、お前のその香りには耐えられない。この高貴な僕まで、周囲から奇異の目で見られて疎外される始末だ。もう別れてくれ‥‥‥婚約破棄だ」 「なあ、それは王族の横暴じゃないのか?」  共通の幼馴染、ロランが疑問の声を上げた。    他の投稿サイトでも別名義で投稿しております。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

処理中です...