聖女である私を追放する? 別に構いませんが退職金はしっかり払って貰いますからね?

真理亜

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 明かされたアンジュ達の凄惨な生い立ちに圧倒され、思わずフリードリヒは絶句してしまった。

 更にアンジュは続ける。

「私はすぐにシンを呼び寄せました。シンは私が聖女になったのを見てビックリしていましたが、快く私の護衛を引き受けてくれました。彼が護衛に付いてくれて本当に助かりましたよ。なにせ私は幼少期のトラウマから男性恐怖症になってましたからね。彼以外の男には近くに寄って来られるのもイヤでしたから。そんな私でも彼が側に居てなにかとフォローしてくれたお陰で、少しずつではありますが男性恐怖症は克服しつつあります。ただどうしても、彼以外の男に触られるのだけは我慢できないんです。王太子殿下、私は聖女になるに当たって国王陛下に一つだけお願いしたことがあるんですよ。なんだか分かります?」

「い、いや、見当も付かない...」

「聖女は王族の誰かと結婚するという風潮があったでしょう? 強制ではありませんが不文律として」

「あ、あぁ、確かにあったな...」

「私も本来なら王太子殿下と結婚するはずだったんですよ。それを国王陛下にお願いして勘弁して貰ったんです。私の身の上に同情して下さった国王陛下は、快く承諾して下さいましたよ」

「そうだったのか...」

 今明かされた真実にフリードリヒは悄然となった。

「ところで国王陛下のお加減は如何でしょうか?」

「芳しくない...」

「そうですか...」

 今まで淡々と話していたアンジュの顔が、そこで初めて悲しみに包まれたような表情になった。

「最後に一目お会いしたかったのですが...」

「無理だ...もう既に俺の顔すら分からなくなってる...」

 国王はアルツハイマーを患っている。いくら聖女の癒しの力があったとしても老いは治せない。自然の摂理を覆すことまでは出来ない。

「そうなんですね...」

 アンジュは悲し気に目を伏せた。ややあって顔を上げたアンジュは、悲しみを振り払うようにこう言った。

「最後に一つだけ。昨日のあの女の子、可愛かったですよね? 変態共が大喜びするようなレベルでした。ねぇ、王太子殿下。私はね、あの時もしあの子が自分の体を差し出してもいいというような覚悟を持ってお願いして来ていたら、きっと言う事を聞いてあげていたことでしょう。でもあの子はそうしなかった。心の中では自分はまだ子供だから泣いて擦ればきっと助けてくれるだろう。そんな風に思っていたことでしょうね。そういった打算や甘えが垣間見えたから、私は断固として拒否したんですよ。要は子供だからって甘えてばっかりいるだけじゃなく、本当に大事な人を助けて欲しいなら体を張れっていうことです」

「そ、それは...」

 アンジュの身の上を聞いたばかりのフリードリヒは言葉に詰まった。
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