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「聖女様! お願いです! どうか助けて下さい!」

 今日は月に一度行われる、聖女による『癒しの日』の当日である。神殿には数多くの市民が癒しを求めて駆け付けていた。

 そんな中、ボロボロの衣服を纏った10歳くらいの女の子が涙ながらに訴えた。

「どうしました?」

 聖女と呼ばれた女は、そんな女の子を冷めた視線で見下ろしながら尋ねた。

「私のお母ちゃんが病気で動けないんです! どうか往診して貰えませんでしょうか! お願いです! どうかお願いします!」

 女の子は土下座するような格好になって必死に懇願する。

「お金はあるんですか?」

 聖女はそんな女の子の姿にも全く心を動かされるような様子も無く、努めて事務的な口調でそう尋ねた。

「い、いえ、お金はありません...で、でも、頑張って働いて少しずつ払います! だからお願いです! お母ちゃんを助けて下さい! お願いします!」

 女の子は地面に顔を擦り付けながら必死に訴えたが、

「話になりませんね。顔を洗って出直して来なさい」

 聖女は膠も無いと言わんばかりに冷たく言い放った。

「そ、そんなぁ! お願いですぅ! お願いだからどうか助けて下さ~い! 聖女様ぁ!」

 女の子が泣き叫ぶが、

「五月蝿いから外に連れ出して下さい」

 非情にも聖女は近くに居た神殿のスタッフにそう告げるだけだった。

「次の方どうぞ」

 そして何事もなかったかのように次の患者を呼んだ。

 そんな聖女の姿を、苦虫を噛み潰さんばかりの厳しい表情で睨み付ける一人の男の姿があった。


◇◇◇


「聖女アンジュ! 貴様の行いは聖女として相応しくない! よって聖女の資格を剥奪し、国外追放を言い渡す! 即刻我が国から出て行け!」

 次の日、この国の王太子フリードリヒは聖女アンジュに朗々とそう宣告した。

「私を国外追放ですか? 理由をお聞きしても?」

 聖女アンジュは眉一つ動かさず冷静に尋ねた。

「分からんと申すか! 自分の胸に手を当ててよおく考えてみろ! 貴様のように金に汚い女なんぞ聖女ではない! よくもあんな幼子相手にあのような非情な真似が出来るな! 度し難い蛮行であるぞ! 恥を知れい!」

 フリードリヒ王太子は激昂しながらそう叫んだ。

「癒しを受けたいなら対価を払うのは当然だと思いますが?」

 聖女アンジュは一切怯むことなくそう言った。

「黙れ黙れ黙れい! 貴様のそういった態度が問題だと言っておるのだ!」

「そうですか。分かりました」

 なにを言っても無駄だと悟った聖女アンジュは、

「国外追放は構いませんが、退職金はしっかり払って頂きますからね?」

 堂々とそう言い放った。
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