273 / 276
273
しおりを挟む
「怖いわね...まだどこかに潜伏していると思うと...」
ブルッと震えた私の体を、エリザベートがそっと抱き締め優しく包み込んでくれた。
「大丈夫、大丈夫よ...医師や看護師などの病院関係者、それに入院患者や見舞い客に至るまで全て、怪しい人物が紛れ込んでいないかチェックしているからね?」
「えっ!? か、患者さん達まで!?」
「当ったり前じゃない! ちなみに外来の受診者もチェック対象になっているわ!」
「そ、それはまたなんとも...」
病院関係者並びに患者関係者の皆さん、ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありません...
「だからね? アンリエットはなにも心配しないでアランの容態だけを案じていなさい? いいわね?」
「うん、ありがとう...」
エリザベートの優しさが身に沁みた。
「それで? アランは今どんな状態なの?」
「...うん、実はね...」
私はお医者様に言われたことをエリザベートに伝えた。
「...そう...今夜が...」
「...うん...」
「...アンリエット、私も今夜は」
「ダメよ、エリザベート」
私は皆まで言わせなかった。
「で、でも...」
「デモもストもない。エリザベートの気持ちはとっても嬉しいけど、今のあなたはあなた一人の体じゃないってことを忘れないで?」
「...うん...」
「私は大丈夫だから。ね? あなたは帰って休んでちょうだい?」
「...分かった...アンリエット、気をしっかり持ってね...」
「えぇ、ありがとう...」
◇◇◇
エリザベートを見送った後、私は未だ目を覚まさないアランの手を握って祈った。
「アラン...もう朝よ...いつまで寝てんの...いい加減...目を覚ましなさい...お願い...お願い...だから...」
気付けば私の目からは止めどなく涙が溢れてきていた。私は涙を拭おうともせず一心不乱に祈り続けた。
思い返せばギルバートから始まり、クリフトファー様を経てパトリックに至るまで、私の回りに集って来た男達の中では間違いなく一番マトモだったのがアランだ。
もっともそれは、他の男達と違って最初の出会いが最悪な印象から始まったから、もうそこからは上がる一方しかなかったという面も確かにある。そして男達の中で唯一、貴族じゃなかったという点も新鮮に映ったのかも知れない。
そういった色んな要素が複雑に絡み合った結果、私の中でアランという男の存在はこれ程まで大きなものになっていった。
「...このバカ...目を覚まさなかったら許さないんだからね...」
私は声を殺して静かに泣きじゃくった。
ブルッと震えた私の体を、エリザベートがそっと抱き締め優しく包み込んでくれた。
「大丈夫、大丈夫よ...医師や看護師などの病院関係者、それに入院患者や見舞い客に至るまで全て、怪しい人物が紛れ込んでいないかチェックしているからね?」
「えっ!? か、患者さん達まで!?」
「当ったり前じゃない! ちなみに外来の受診者もチェック対象になっているわ!」
「そ、それはまたなんとも...」
病院関係者並びに患者関係者の皆さん、ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありません...
「だからね? アンリエットはなにも心配しないでアランの容態だけを案じていなさい? いいわね?」
「うん、ありがとう...」
エリザベートの優しさが身に沁みた。
「それで? アランは今どんな状態なの?」
「...うん、実はね...」
私はお医者様に言われたことをエリザベートに伝えた。
「...そう...今夜が...」
「...うん...」
「...アンリエット、私も今夜は」
「ダメよ、エリザベート」
私は皆まで言わせなかった。
「で、でも...」
「デモもストもない。エリザベートの気持ちはとっても嬉しいけど、今のあなたはあなた一人の体じゃないってことを忘れないで?」
「...うん...」
「私は大丈夫だから。ね? あなたは帰って休んでちょうだい?」
「...分かった...アンリエット、気をしっかり持ってね...」
「えぇ、ありがとう...」
◇◇◇
エリザベートを見送った後、私は未だ目を覚まさないアランの手を握って祈った。
「アラン...もう朝よ...いつまで寝てんの...いい加減...目を覚ましなさい...お願い...お願い...だから...」
気付けば私の目からは止めどなく涙が溢れてきていた。私は涙を拭おうともせず一心不乱に祈り続けた。
思い返せばギルバートから始まり、クリフトファー様を経てパトリックに至るまで、私の回りに集って来た男達の中では間違いなく一番マトモだったのがアランだ。
もっともそれは、他の男達と違って最初の出会いが最悪な印象から始まったから、もうそこからは上がる一方しかなかったという面も確かにある。そして男達の中で唯一、貴族じゃなかったという点も新鮮に映ったのかも知れない。
そういった色んな要素が複雑に絡み合った結果、私の中でアランという男の存在はこれ程まで大きなものになっていった。
「...このバカ...目を覚まさなかったら許さないんだからね...」
私は声を殺して静かに泣きじゃくった。
26
お気に入りに追加
3,477
あなたにおすすめの小説

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
※ご感想・ご意見につきましては、近況ボードをご覧いただければ幸いです。
《皆様のご愛読、誠に感謝致しますm(*_ _)m》

手放したくない理由
ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。
しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。
話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、
「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」
と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。
同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。
大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる