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「お嬢様...大変申し訳ありません...私のミスです...」
 
 お医者様の到着を待つ間、悔しさを滲ませながらカイルが謝罪した。

「いいえ...あなたのせいじゃないわ...行き先の変更を決めたのは私だもの...それにしても...一体なにがあったの?」

 私は未だに目を覚まさないアランの手を握り締めながら、取り敢えず状況を確認しておこうと思った。

「ヤツら、道にロープを張って待ち伏せてしていやがったんです...気付いた時にはもう手遅れで...まず馬がロープに足を取られて転倒し、それに釣られるような形で馬車も横倒しになりました...」

「そうだったのね...」

「本当に...申し訳ございません...」

「だからもういいってば...あなただって全身傷だらけなのに、その後の破落戸どもの襲撃を防いでくれたんでしょ? お医者様が到着したら、アランの次にあなたもちゃんと診てもらいなさい? いいわね?」

 なにせ今もカイルの頭からは血が滴り落ちているのだ。気丈に振る舞ってはいるがやっぱり心配になる。

「お心遣痛み入ります...」

「お嬢様、私もお詫びさせてください...」

 すると今度はセバスチャンが頭を下げてきた。

「頭を上げなさい、セバスチャン。あなたには感謝こそすれ謝ってもらう謂れはないわ。あなただってそんな傷だらけになってまで戦ってくれたんじゃないの? あなたもちゃんとお医者様に診てもらうこと。いいわね?」

 セバスチャンの怪我の具合は、見た目カイルとあまり変わらないように見える。だからやっぱり心配になる。

「あ、ありがとうございます...肝心な時にお嬢様をお守りできなかった私めなんぞのためになんとお優しい..」

 あぁ、そのことを気にしてたのか。セバスチャンらしいな。

「大丈夫よ。代わりにアランがしっかりと守ってくれたから。お陰で私はかすり傷一つ負わなかったわ。あなたの執事教育の賜物ね?」

「お、お嬢様...」

 セバスチャンが感極まってしまった時、

「アンリエット、やっぱり思った通りだったわ。あの破落戸どもはカスパート家に雇われたみたいね」

 破落戸どもを片付けてくれていたエリザベートが戻って来て忌々しげにそう告げた。

「エリザベート、ありがとうね。それにしてもなんであなたがここに?」

 行き先は急遽変更したものだ。だからエリザベートは私達が公爵家に向かうことを知らなかったはず。

「私もちょうど出掛けるところだったのよ。馬車を出そうとしたら、前方で馬車がひっくり返っているのが見えたもんだから大慌てで駆け付けたって訳よ。まさかあなたん家の馬車だとは思わなかったから、気付いた時には肝を冷やしたもんだったわよ...」

「そうだったのね...」
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