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 翌日、朝から仕事に精を出している私の所に、

「あ、あの...」

 おずおずと言った感じでアランが現れた。

「お師匠様がどこにも居ないんですが...お嬢」

 指揮棒ピシッ!

「お、お嬢様はなにかご存知ありませんでしょうか?」

「セバスチャンには例の私のお見合い相手の調査をして貰っているわ」

「左様でございますか...その...調査であれば俺」

 指揮棒ピシッ!

「わ、私もお役に立てることがあるかなと思うのですが...」

「貴族の世界の調査は市政の調査とは訳が違うわ。あなた、貴族間に誰か知り合いでも居るの?」

「い、いえ...全く...」

「それじゃ無理よ。黙ってあなたのお師匠様に任せておきなさいな」

 ちなみにセバスチャンのことをお師匠様と呼ぶのは、この屋敷で執事見習いをやっていた時と同じだったりする。

 今となってはどこか懐かしい響きだが、またその呼び方が復活するとは思わなかった。人生とはなにが起きるか分からないものであるとつくづくそう思う。

「わ、分かりました...」

「今日、あなたはセバスチャンに代わって私の補佐をしなさい。手始めにこのメモを便箋に清書して?」

「は、はい...」

「書き終わったら手紙で出版社に送って?」

「か、畏まりました...」

「あ、その前に領地からの決算報告が届いていないかチェックして?」

「た、直ちに...」

「それから...」

 こんな感じで昼間は慌ただしく過ぎて行った。


◇◇◇


 その日の夜遅く、セバスチャンが帰って来た。

「お嬢様、遅くなりましたがただいま戻りました」

「こんな時間までご苦労様。で? どうだった?」

「はい、まずはこちらをご覧下さい」

 セバスチャンがなにやら書類を取り出した。

「これは...貴族年鑑の抜粋ね?」

 貴族年鑑とはその名の通り、我が国に所属する貴族家の一覧が載っている本である。毎年王家が編纂しているものだが、貴族であれば誰でも王立図書館で閲覧可能となっている。
 
 ただし持ち出しは厳禁なので、調べたい場合はこのようにメモとして抜粋するしかないのだ。

「えっ!? 貴族になったの去年なの!?」

「はい、それまでは一般人でした」

「金で爵位を買ったってことね?」

「左様でございます。調べました所、元はかなりの財を成した商人でした」

「道理でカスパート男爵家なんて聞いたことがないはずだわ。新興の貴族家だったのね。ちなみにどんな商売してるの?」

「出版業でございます」

「あぁ、なるほど...ウチの商売敵ってことか...」

「左様でございますな」

 だから私に目を付けたってことね。納得行ったわ。
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