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 アランはしばし黙考した。

 ややあって徐に口を開く。胸に手を当てて少し頭を下げながら。

「...お嬢様のお心のままに...」

「そう...」

 そのアラン言葉に私は、ちょっと落胆している自分に気付いた。だったら一体私はアランになんて言って欲しかったんだろうか?

『貴族の柵なんてかなぐり捨ててお見合いなんか断って欲しい』

 そんな言葉を期待してたんだろうか? 自分の態度だってまだ明確にしてないクセに? アランにだけそんな対応を求めるのはフェアじゃないだろう。 
 
 ただそうは思っていても、心のどこかでアランの方から垣根を越えて来て欲しいと期待している自分がいるのもまた確かだ。

 虫が良いと言われるかも知れないが、女なんてそんなもんだ。身勝手で我が儘。好きな男の前では見栄を張りたがる。それが女って生き物なんだ。

 好きな男? 自分で思ってちょっとビックリした。やっぱり私の中でアランの存在はこんなにも大きくなっていたんだなと改めて実感した。

 だからこそ、杓子定規的なアランの言葉にガッカリしたんだろうな。私がそんなことを考えながら言葉を詰まらせていると、

「あんた! なに言ってんのよ!」

 バシイッ!

「痛って~!」

 エリザベートがアランの背中を思いっきりぶっ叩いていた。

「な、なにすんだよ! エリザベートお嬢!」

 よっぽど痛かったんだろう。アランが涙目になりながら抗議する。また言葉遣いが乱れているが、エリザベートの一撃を食らったんだから仕方ない。ここは一つ大目に見てあげることにしよう。

「お黙り! あんた、エリザベートが他の男に取られてもいいって言うの!?」

「...そ、それは...」

「それは!?」

「...な、なんて言ったらいいのか...」

「なによ!? ハッキリしない男ね! はいかいいえで答えなさい!」

「...い、いいえ...」

「声が小さい!」

「いいえ!」

「だったらなんで自分の口からそう言わないのよ!?」

「だ、だからそれは...や、やっぱり俺なんかじゃまだお嬢には相応しくないのかなって思ったりして...」

「だったら早いとこ相応しい男になればいいじゃないのよ! それまで待っててくれって一言がなんで言えないのよ!」

「......」

 ついにアランは沈黙してしまった。

「ハァ...ホントに情けない男ね! アンリエット、あなたもホントにこの男でいいの!?」

「その前にエリザベート、あなたはちょっと落ち着きなさい。私のことを思って言ってくれたのは嬉しいけど興奮し過ぎよ? あなた一人の体じゃないんだからね?」

 自分のことよりも、私はまだ安定期に入っていないエリザベートの体の方が心配になっていた。
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