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 翌日、エリザベートが一人でやって来た。

「やっほ♪」

「あれ? あんた一人?」

「うん」

「アランは?」

「生きてるわよ?」

「そ、そう...」

「かろうじてね♪」

「ハハハ...」

 私は笑うしかなかった。

「今から詰め込むんだもん。多少はスパルタしないとね」

「お手柔らかにね...」

「大丈夫よ。アラン、結構根性あるみたいだから」

 そうは言っても子供の頃から仕込むのとは違って、大人になってから仕込むというのは話が変わって来る。

 頭が柔らかい子供と頭が固い大人とでは、物覚えに差が生じるのは無理からぬことだろう。

 アランはさぞかし大変な目に遭っているのだろうと思うと、私は同情するのを禁じ得なかった。

「それじゃ私はスイートハートに会って来るわね~♪」

「程々にね...」

 私は達観するしかなかった。


◇◇◇


「あれ? 兄さん一人?」

 夕食の席に現れたのは、窶れ切った兄一人だった。

「...あぁ...」

「エリザベートは帰ったの? 珍しいわね?」

 いつもなら泊まって行くのに。

「...その...俺がもう....役に立たないから...」

「あぁ、そういう...」

 物理的に立たないってことね...

「なんて言うか...兄妹でこんな生々しい話なんかしたくないんだけど...少しは控えたら?」

「...それはエリザベート嬢に言ってくれ...」

 兄は頭を抱えてしまった。

「その...ロバート様...夕食の方は...」

 そこにセバスチャンが遠慮がちに問い掛ける。

「...あぁ、食べるよ...ノルマがあるからな...」

「ノルマ厳しそうね...」

 私は同情するしかなかった。

「ハハハ...」

 兄は力なく笑うだけだ。

「ちなみに今日のメニューは? またニンニク臭くなるなら私は部屋に引っ込むけど?」

「スッポン鍋にスッポンのステーキ、スッポンの生き血でございます...」

「そのスッポン推しはなんなのよ...」

 私は聞いてるだけで胸焼けしそうになった。生き血って...飲めるもんなの?

「あぅ...」

 兄は諦観したように天を仰いだ。

「まぁ兄さん、せいぜい頑張って...セバスチャン、夕食は部屋で摂るわ。申し訳ないけど運んで貰える?」

「畏まりました...」

 見ていたくなかった私は、早々に部屋に引っ込もうとしたのだが、

「ま、待ってくれ、アンリエット! た、頼むから一人にしないでくれ!」

 なんか知らんけど、兄が縋りついて来た。

「イヤ」

 だが私は素気無く食堂を後にした。付き合ってられんわ。

「そ、そんなぁ~...」

 兄の情けない声が後ろから聞こえて来たが無視した。
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