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 兄はヒィヒィ言いながらなんとかスッポン鍋を完食したようだ。私は心の中でお疲れ様と呟いた。

 その日、夕方になってからエリザベートとアランは戻って来た。

「お帰り。どうだった?」

「つ、疲れた...」

 慣れない貴族の振る舞いに気疲れしたのか、アランは疲れ切った様子だ。

「エリザベート、どんな感じだったの?」

「まぁ掴みはオッケーと言った所かしらね。スチュワード子爵は気に入ってくれたみたいよ?」

「そう。良かったわね」

「ただね、アランの振る舞いがちょっと...」

 エリザベートが顔を顰めた。

「うぅ...」

 アランは小さく呻いた。

「そりゃ無理もないでしょ。大分マシになったとはいえ、執事としての振る舞いも付け焼き刃みたいなもんだもん。生粋の貴族と比べるのは可哀想よ」

「そうなのよねぇ...でもこのままじゃスチュワード子爵に恥を掻かせることになるし、アンリエットの相手としても相応しくないわよねぇ...」

「うぅぅ...」

「良し! 決めた!」

 エリザベートが指をパチンと鳴らした。

「なにを?」

「アランを教育するのよ! どこに出しても恥ずかしくないように、貴族のマナーや言葉遣い、優雅な所作なんかを叩き込んでやるわ!」

「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」

 アランはこの世の終わりのような顔になった。

「そうと決まればアラン! 今から始めるわよ! アンリエット、アランを預かるけどいいわよね?」

「どうぞご自由に...」

「そ、そんな...お、お嬢...」

 今にも泣きそうなアランの襟首を掴んだエリザベートは、

「さぁ行くわよ!」

 引き摺るようにしてアランを連れて行った。

「あ~れ~!」

 憐れなアランはドナドナされて行ったとさ...

「南無...」

 私は心の中でアランの無事を祈った。 


◇◇◇


「ウプッ!」

 夕食を摂るために食堂に行った私は、噎せ返るようなニンニクの匂いに辟易した。

「セバスチャン...ちょっとニンニク増し増し過ぎじゃないの...」

「申し訳ございません...エリザベート様からの指示でして...」

「これじゃ服がニンニク臭くなっちゃうわ...夕食は部屋で摂るから、申し訳ないけど私の分は運んで貰っていい?」

「畏まりました...」

「そういや兄さんはまだ?」

「えぇ、まだ昼食が消化し切れていらっしゃらないご様子で...お腹が空かないとおっしゃっておられました...」

「まぁそりゃ無理もないかもね。じゃあ夕食は抜きで?」

「いえ、その...ノルマは果たさないといけないので...運動をしてエネルギーを消費するとおっしゃって、お出掛けになられました...」

「ノルマあるんだ...」

 この時ばかりは心から兄に同情した私だった。
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