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「お嬢様、お手紙が来ております」

 朝食を終えた頃、セバスチャンが手紙を持って来た。

「どこから?」

「ランドルフ侯爵家からでございます」

「来たわね...」

 私は手紙を開いた。

「お嬢、なんて?」

「兄とのお見合いの期日を知らせて来たわ」

「いつ?」

「明後日」

「それはまた...かなり急だな...」

「えぇ、向こうとしてはこっちが断れる訳がないと高を括って、こんな近々に設定して来たんでしょうね」

「なるほど...舐めて掛かって来てるって訳か...」

「その方がこっちとしても好都合だけどね。アラン、悪いんだけど兄の寝室に行って、あのバカップルを呼んで来て貰える?」

「えぇっ!? 俺がぁ!? ヤだよ! 行きたくないよ! きっと今頃、盛りの付いた犬猫みたいにヤッてる最中なんだろ!? 勘弁してよ!」

「四の五の言わずに行きなさい!」

「ここは一つお嬢が...」

「私だって行きたくないわよ! なにが悲しゅうて親友...いやもうあいつは親友じゃねぇな...悪友だ悪友...その悪友と実の兄がアハンウフン♪ している場面を見せ付けられにゃならんのだ! どんな拷問だよそれ!」

「じゃあここは年の功ってことでセバスチャンの兄貴に...」

「おい! ふざけんな、アラン! こういう時だけ兄貴呼ばわりするんじゃねぇ!」

「あぁもう! 分かったから! あんたら二人、クジでも引いて負けた方が言って来なさいよ!」

『えぇ~...そんなぁ~...』

 大の男の執事二人が泣きそうな顔になるというレアな場面...って、誰得だよこんなの...見たくもねぇわ...

 クジの結果、ハズレを引いたセバスチャンは、トボトボとした足取りで兄の寝室に向かった。


◇◇◇


 約10分後。

 髪を振り乱し、ネグリジェを引っ掛けただけの姿でエリザベートが飛んで来た。

「いよいよ来たのね! 手紙見せて!」

「いやその前に...お前、シャワーくらい浴びてから来いよな...なんかイカ臭ぇわ...」

「気にしない気にしない! まだ第二ラウンドの途中だったからね! 戻って続きをしないと! シャワーなんて浴びたら興醒めするじゃないのよ!」

「そんな生々しいこと聞きたくねぇよ...」

 埒が明かんと判断した私は、手紙をエリザベートに投げ付けた。

「どれどれ!? フムフム!? なにぃ!? 明後日だとぉ!? 舐め腐りやがってぇ! あんの狸親父めぇ!」

 エリザベートが手紙を床に叩き付けた。

「アンリエット! 返事をしなさい!

『お待ち申し上げております』

 ってね! 見てろよ、狸親父ぃ! 目に物見せてやるからなぁ!」

 エリザベートが拳を握り締めた。

「それじゃ私はこれで♪ 待っててねぇ♪ あなたぁ♪」

 来た時と同じように飛んで行ったエリザベートを、私は呆気に取られて見ているしかなかった。
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