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「ランドルフ侯爵家のことなんだけどね」

 エリザベートが急に襟を正したので、私もちょっと身構えた。

「なにか分かった?」

「調べてみたら例のアナスタシアって令嬢は、どうやら侯爵本人がどっかから連れて来た娘みたいなのよ。つまり養女ってこと」

「外で仕込んだ隠し子ってことかしら?」

「あるいはどっかの孤児院とかから見付けて来たか。何れにしてもなにか企んでいることは間違い無さそうよね」

「まぁそうよね...ウチを乗っ取るとか...」

 それしか無いよね...

「そんな所でしょうね。でも安心して。ヤツらの好きになんかさせないから」

「どうやって? そんなのいくら公爵家と言えど難しいんじゃないの?」

 エリザベートの自信はどっから来るんだろうか?

「ウチがあなたの家の後見になるわ」

「後見...つまり寄親になってくれるってこと?」

「えぇ、そうよ。あなたの家はウチの寄子になるってこと」

「それは...ありがたいけど...本当にいいの?」

 通常、寄親と寄子の関係になるのは親戚関係、あるいは姻戚関係にある家同士の場合だ。どっちでもないエリザベートの家とウチがそういう関係になってもいいんだろうか?

「過去にそういった例が全くなかった訳じゃないわ。手柄を立てた家臣に対し、褒美として寄親寄子関係を結んであげてた時代もあったくらいだし」

「そうなんだ...」

「それにね、あなた私がお詫びしたいって言っても、お金や高額な贈り物なんか受け取ってくれないでしょう?」

「まぁそれは確かに...」

「だからこれはせめてもの罪滅ぼしだと思ってちょうだいな?」

「いやでもそれは...」

 アランを貴族にしてくれるってことだけで十分だと思ってたんだが...

「それとね♪」

 そこでエリザベートがニマァとイヤらしく笑った。私はとってもイヤな予感がした。

「これからそういう関係になっちゃえばいいんじゃな~い♪」

「やっぱりそう来たか...」

「アンリエット~♪ お姉様と呼んでくれてもいいのよ~♪」

「誰が呼ぶか! ってか、まだ諦めてなかったんかい!」

「障害があればあるほど愛は燃え上がるものなのよ~♪」

「どこが障害だ! なにが愛だ! つーか、ベンジャミンはどうすんだよ!」

「ベンジャミン? それ誰だっけ?」

「おめーの婚約者だろうがよぉ!!」

「あ、忘れてた♪」

「忘れてんじゃねぇ!」

「テヘペロ♪」

「だからあざと過ぎんだっての!」

 ハァ...ハァ...全くもう...コイツは...私は怒鳴り過ぎてすっかり疲労困憊になっていた...あぁ、喉が痛い...頭も痛い...
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