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192 (第三者視点10)

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 一方その頃。

 アンリエットは王都の屋敷に戻っていた。エリザベートばかりに任せておく訳にはいかないと思ったからだ。

 ハンスに留守を任せて領地から飛んで来た。ハンスはあまり良い顔をしなかったが、アンリエットの意志が固いと見るや、仕方なしと諦観して送り出した。

「えっ!? お嬢様!?」

 予定のなかったアンリエットの訪問にセバスチャンが目を丸くする。

「セバスチャン、久し振り。兄はどこ?」

「執務室ですが...」

「ありがとう」

 久し振りに帰った我が家を懐かしむ間も無く、アンリエットはロバートの執務室を目指す。

「兄さん、厄介なことになったわね...」

 アンリエットは挨拶もそこそこに本題に入った。

「あぁ、アンリエット。来てくれたのか...ありがとう...」

「兄さん、ちょっと痩せた?」

 アンリエットの目には、久し振りに見た兄の顔がなんだか窶れているように見えた。心配しながらそう尋ねる。

「そうかも知れない...ここんとこ、ずっと食欲が無くてな...」

「気持ちは良く分かるし、心労の原因も分かってるけど、こういう時にこそしっかり食べて体力を温存しておかないとダメよ。少し休んでなさい。仕事なら私が代わってあげるから」

「いや、ありがたい申し出だが...そういう訳にもいかんだろう...なんとかしないとウチはヤツらの食い物にされて終わりなんだからな...」

「今、エリザベートが動いてくれているわ。だから少しは安心して?」

「そうか...エリザベート嬢が...分かった...済まない...ちょっとだけ休ませて貰おう...」

 そう言ってロバートは立ち上がろうとしたが、

「危ない!」

 よろけて倒れ込みそうになった。慌ててアンリエットが支える。

「セバスチャン! 手を貸して!」

 アンリエットの細腕では大人の成人男性であるロバートの体は手に余る。すかさずアンリエットはセバスチャンを呼んだ。

「お嬢様!? 如何なされましたか!? こ、これは...」

 一目で状況を理解したセバスチャンが助けに入る。

「お医者様を呼んで。多分、心労が祟ったんだとは思うけど、念のために診て貰いましょう」

「畏まりました」

「それとしばらくは私が兄の仕事を代行するからよろしくね」

「了解致しました」


◇◇◇


 同時刻。アランの目の前ではパトリックが土下座していた。

「...アラン、本当に済まなかった...煮るなり焼くなり好きにして貰って構わない...」

 既に港の居酒屋で情報を仕入れていたので、今のパトリックの格好を見ても特段驚きはしないが、こうも簡単にウィリアムが見付けて来たことには驚いた。

 そしてウィリアムから事情を聞くと、怒りというより憐れみの方が強く湧く出て来ているのを感じていた。
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