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「ちょっと貸しなさい」

 見ていられなかった私は、パトリックの手から子供を受け取った。これじゃ落ち着いて話も出来ない。

「お~ 良し良し。良い子だから泣かないで? パトリック、この子の名前は?」

「マックスだ」

「男の子?」

「あぁ、そうだ」

「髪くらい短く揃えてあげなさいよね。こんなに伸ばしてるんだもん。一瞬女の子かと思ったわよ」

「す、済まん...」

「何歳なの?」

「三歳だ」

「そう。あなたマックスっていうのね。ほらほら、良い子だから泣かないで」

 抱き締めながらあやしているとマックスは、

「うぅ...ママぁ...ママぁ...」

 私の胸に顔を埋めてようやく泣き止んだ。

「それで? なんだってウチに来た訳? 二度と面見せんなって言ったわよね? まさかもう忘れちゃった?」

「い、いや、ちゃんと覚えてる...済まん。だがこの子の、マックスのためなんだ...どうか大目に見て欲しい...」

「どういうこと?」

「マックスの母親であるマーガレットの足取りを追ったら、この領地に逃げて来た可能性が浮上してね。マーガレットを探すためにやって来たんだが、君に一言断ってからにしようと思って」

「なるほどね。それでそのマーガレットはどの辺りに潜んでるらしいの?」

「マーガレットが勤めていた娼館の娼婦仲間に聞いた所によると、この町にある娼館に知り合いが居るらしい。恐らくその辺りじゃないかと推測している」

「なるほど。それじゃあさっさと行って来なさい。その間、マックスは預かっておいてあげるわ」

「ありがとう...恩に着るよ...」

 そう言って立ち上がったパトリックだったが、

「パトリック、ちょっと待って。アラン、パトリックを娼館に案内してあげて?」

「えぇ~!? なんで俺がそんな面倒なことを~!?」

 私はブーブー文句を垂れるアランの首根っこを掴んで引き寄せ、

「パトリックが子供を置いて逃げないよう監視していなさい」

 と耳元で囁いた。

 私はどうにもこのパトリックの態度が気になったのだ。もちろん、マーガレットを本気で探そうとはしているんだろうが、それ以上に厄介事を押し付ける気満々みたいな感じがする。

 だって普通、子供連れでやって来たりする? なんでベビーシッターを雇ってあげないの? 同情を買うためかも知んないけど、どうもやってることがチグハグに感じた。

「了解...」

 アランは小さく頷いた。


◇◇◇


 パトリックとアランが出て行った後、泣き疲れたのかマックスは寝てしまった。

「ハンス、悪いんだけどベビーシッターを頼んでくれない?」

「...差し出がましいようですが...お嬢様、そこまでしてあげる必要があるのでしょうか...」

「子供に罪は無いわ。そうでしょう?」

「...それは確かにそうですが...」

「いいからお願い。男の子の幼児用の服やおしめなんかも用意するように伝えてちょうだい。あ、あと幼児用の食べ物なんかも」

「...畏まりました...」
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