122 / 276
122 (第三者視点5)
しおりを挟む
「えっ!?」
そんな薬瓶など入れた覚えのないパトリックは間の抜けた声を上げた。実はマーガレットがコッソリと忍ばせていたのだが、そんなことを知らないパトリックは当惑するのみだった。
上着のポケットならまだしも、コートのポケットまでは確認しなかったということもあった。
「これは...」
薬瓶の蓋をちょっとだけ開けて中身の匂いを嗅いだアランが顔を顰めた。
「なんなの?」
「媚薬だ。それもかなり強力なヤツ」
「...ちょっと、パトリック...なんでそんなもん持ち歩いてんのよ!?」
アンリエットは蔑むような視線を向けた。
「ち、違う! そ、それは俺の物じゃない!」
パトリックは必死に否定する。マーガレットの物なので間違ってはいない。
「はは~ん、そういうことか」
アランがしたり顔でそう呟く。
「どういうこと?」
まだ分かっていないアンリエットが問い掛ける。
「お嬢、こういうことだよ。窮地を救ってくれたヒーローに対しては『なにかお礼をさせて下さい』ってな話になるじゃん? そしたら『じゃあお食事でも一緒に』っていう風に話を持って行って、後は隙を見てコッソリこの媚薬を料理や飲み物に混ぜて飲ませる。薬が回って来たらお持ち帰りして既成事実へとまっしぐら。どうよ? パトリックの旦那? こんな筋書きだったんだろ?」
「ち、違う! ち、違うんだ! そ、そんなこと考えてない!」
確かにマーガレットにはそう言われた。女なんてヤっちまえばこっちのもんだと。だがパトリックはそんな考えを真っ向から否定した。
だからその点に関して言えば完全に冤罪ではあるのだが、如何せん破落戸を嗾けたのは事実だから、いくら否定しても説得力がない。
しかも媚薬まで出て来たとあっては言い訳のしようもなかった。
「パトリック...アンタって人は...堕ちる所まで堕ちたわね...」
アンリエットは汚らわしいものを見るような目でパトリックを見下ろした。
「違う...違うんだ...アンリエット、頼むから信じてくれ...」
パトリックは涙ながらに懇願するが、アンリエットは聞く耳を持たなかった。そして怒りを滲ませながらこう続けた。
「アラン、決めたわ。官憲に突き出すのは止める。その代わりにこのロクデナシは、弟と同じようにマグロの遠洋漁業船に乗せることにする。コイツの子爵家は我が伯爵家の権威を振り翳して取り潰してやる! 伯爵家を舐めんじゃないわよ!」
「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」
凄い剣幕のアンリエットにこれ以上ないほど凄まれたパトリックは、情けない悲鳴を上げて地に伏してしまった。
そんな薬瓶など入れた覚えのないパトリックは間の抜けた声を上げた。実はマーガレットがコッソリと忍ばせていたのだが、そんなことを知らないパトリックは当惑するのみだった。
上着のポケットならまだしも、コートのポケットまでは確認しなかったということもあった。
「これは...」
薬瓶の蓋をちょっとだけ開けて中身の匂いを嗅いだアランが顔を顰めた。
「なんなの?」
「媚薬だ。それもかなり強力なヤツ」
「...ちょっと、パトリック...なんでそんなもん持ち歩いてんのよ!?」
アンリエットは蔑むような視線を向けた。
「ち、違う! そ、それは俺の物じゃない!」
パトリックは必死に否定する。マーガレットの物なので間違ってはいない。
「はは~ん、そういうことか」
アランがしたり顔でそう呟く。
「どういうこと?」
まだ分かっていないアンリエットが問い掛ける。
「お嬢、こういうことだよ。窮地を救ってくれたヒーローに対しては『なにかお礼をさせて下さい』ってな話になるじゃん? そしたら『じゃあお食事でも一緒に』っていう風に話を持って行って、後は隙を見てコッソリこの媚薬を料理や飲み物に混ぜて飲ませる。薬が回って来たらお持ち帰りして既成事実へとまっしぐら。どうよ? パトリックの旦那? こんな筋書きだったんだろ?」
「ち、違う! ち、違うんだ! そ、そんなこと考えてない!」
確かにマーガレットにはそう言われた。女なんてヤっちまえばこっちのもんだと。だがパトリックはそんな考えを真っ向から否定した。
だからその点に関して言えば完全に冤罪ではあるのだが、如何せん破落戸を嗾けたのは事実だから、いくら否定しても説得力がない。
しかも媚薬まで出て来たとあっては言い訳のしようもなかった。
「パトリック...アンタって人は...堕ちる所まで堕ちたわね...」
アンリエットは汚らわしいものを見るような目でパトリックを見下ろした。
「違う...違うんだ...アンリエット、頼むから信じてくれ...」
パトリックは涙ながらに懇願するが、アンリエットは聞く耳を持たなかった。そして怒りを滲ませながらこう続けた。
「アラン、決めたわ。官憲に突き出すのは止める。その代わりにこのロクデナシは、弟と同じようにマグロの遠洋漁業船に乗せることにする。コイツの子爵家は我が伯爵家の権威を振り翳して取り潰してやる! 伯爵家を舐めんじゃないわよ!」
「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」
凄い剣幕のアンリエットにこれ以上ないほど凄まれたパトリックは、情けない悲鳴を上げて地に伏してしまった。
23
お気に入りに追加
3,482
あなたにおすすめの小説

真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

10年もあなたに尽くしたのに婚約破棄ですか?
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のソフィア・キーグレスは6歳の時から10年間、婚約者のケヴィン・パールレスに尽くしてきた。
けれど、その努力を裏切るかのように、彼の隣には公爵令嬢が寄り添うようになっていて、婚約破棄を提案されてしまう。
悪夢はそれで終わらなかった。
ケヴィンの隣にいた公爵令嬢から数々の嫌がらせをされるようになってしまう。
嵌められてしまった。
その事実に気付いたソフィアは身の安全のため、そして復讐のために行動を始めて……。
裏切られてしまった令嬢が幸せを掴むまでのお話。
※他サイト様でも公開中です。
2023/03/09 HOT2位になりました。ありがとうございます。
本編完結済み。番外編を不定期で更新中です。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

【完結】義家族に婚約者も、家も奪われたけれど幸せになります〜義妹達は華麗に笑う
鏑木 うりこ
恋愛
お姉様、お姉様の婚約者、私にくださらない?地味なお姉様より私の方がお似合いですもの!
お姉様、お姉様のお家。私にくださらない?お姉様に伯爵家の当主なんて務まらないわ
お母様が亡くなって喪も明けないうちにやってきた新しいお義母様には私より一つしか違わない双子の姉妹を連れて来られました。
とても美しい姉妹ですが、私はお義母様と義妹達に辛く当たられてしまうのです。
この話は特殊な形で進んで行きます。表(ベアトリス視点が多い)と裏(義母・義妹視点が多い)が入り乱れますので、混乱したら申し訳ないですが、書いていてとても楽しかったです。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる