上 下
120 / 276

120 (第三者視点3)

しおりを挟む
 まだ寝ぼけ眼な破落戸共の尻を蹴飛ばしながら、パトリックは昨日アンリエットを見掛けた辺りの場所に向かった。

「良し! ビンゴだ! おい、お前ら! ターゲットを確認したぞ!」

 そこにはちょうど馬車を降りたばかりのアンリエットの姿があった。いつもの従者も一緒だ。

「どれどれ...ヒュウ! 別嬪さんじゃねぇか!」

「おぉっ! 確かにいい女だな!」

「お相手してぇ~!」

「ちょっと待て、お前ら! ちゃんと分かってんだろうな? 手を出すのは男の方だけだぞ? 女の方には手を出すんじゃないぞ? 契約を破ったりしたらタダじゃおかないからな!」

「分かってるって旦那、ちょっと言ってみただけじゃねぇか。そんな目くじら立てんなよ」

「おい、あの二人ちょうどいい具合に裏通りの方へ進んで行くぜ?」

「ホントだ。良~し! いっちょうやったるか!」

「旦那は物陰にでも隠れて出番を待ってな?」

「本当に大丈夫なんだろうな...」

 パトリックは段々不安になって来た。

「大丈夫だって! あんな優男の一人くらいなんとでもならぁな!」

「そうそう! 大船に乗ったつもりで見てな!」

 そう言って破落戸共は裏通りに消えて行った。パトリックは物陰に隠れながら尾いて行った。


◇◇◇


 物陰に隠れて耳を澄ますパトリックにこんな会話が聞こえて来た。

「あっ! 痛っ!」

「痛ってぇ! おうおう、姉ちゃん! どこ見て歩いてんだよ! 痛てぇじゃねぇか!」

「おい、大丈夫か!? あぁ、酷ぇ! こりゃあ間違いなく怪我しちまったなぁ! 治療代を請求しねぇとなぁ!」

「おい、姉ちゃん! 金を払えないってなら体で払って貰ってもいいんだぜ~! ゲヒャヒャヒャ!」

 聞くに耐えない下品な挑発だが、依頼したのは自分だから仕方ない。パトリックはちょうど良いタイミングで出るために機会を窺っていた。すると、

「へへへっ! 大人しくしな! ぐおっ!? びてぶっ!」

「うおっ!? て、てめえ! 舐めやがってこの! たわばっ!」

「こ、この野郎! よくもやりやがったな! あべしっ!」

 なんだか様子が変だ。なにか不測の事態が!? パトリックは慌てて飛び出して行った。


◇◇◇


「さすがね、アラン。瞬殺だなんて」

 アンリエットはアランとハイタッチを交わしながらそう言った。破落戸共は一人残らず地を這っている。

「まぁね~ セバスチャンさんに鍛えられてるから~」

「しかしまぁ...こんな輩はどこの町にも居るもんなのね...」

「だね~ ゴキブリ並みにしぶといから中々根絶やしには出来ないよね~」

「アラン、町の衛兵を呼んで来て貰える?」

「はいよ~」

 その時だった。

「おい、お前ら! なにをしてい...るぅ!?」

 最後の方はなんとも間の抜けた声になってしまったパトリックね姿がそこにあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

処理中です...