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114 (パトリック視点6)

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「おい、マーガレット。一体どうしたんだ!?」

「ねぇ、パトリック。あなたその伯爵令嬢様と結婚したいってまだ本気で思っている?」

「なんだ急に!? そりゃ出来ればそうしたいが...言ったろ? 完全にフラれたんだ...もう望みは全く無いさ...」

「まだ諦めるのは早いかも知れない。ちょっと待ってて?」

 そう言ってマーガレットは奥に消えた。ややあって戻って来たマーガレットは、なにやら薬の小瓶らしきものを手にしていた。

「お待たせ」 

「なんだそれは?」

「これはね、即効性の媚薬よ」

「媚薬だって!?」

「えぇ、以前良く娼館に来ていた常連のお客に貰ったものよ。その人は薬を飲んでハイにならないと女を抱けないタイプの人だったの」

「それは分かったが、なんで今その薬が出て来るんだ!?」

「これをお相手の伯爵令嬢様に飲ませちゃうのよ。そうすれば忽ちあなたの虜になっちゃうわ」

「お前...アンリエットに一服盛れって言ってんのか!? この俺に!? ふざけんな! そんなこと出来る訳がないだろう! 第一、上手いこと一服盛れたとしたって、それだけでアンリエットのことが手に入るってもんじゃないだろうが!」

 俺は激昂してマックスが昼寝していることも忘れ怒鳴り散らしていた。

「あら? だってその人貴族の娘なんでしょ? 貴族って結婚するまでは純潔をなによりも大事にするんでしょ? 私にはそういった考えは全く理解できないけどね。ともあれ、その純潔を散らしちゃったんだから責任を取らせてくれって言えばいいんじゃないの?」

「そんなに上手いこと行く訳ないだろ! なに考えてんだ!? 第一、媚薬を使ったってことはすぐバレるだろう!」

「バレた時はもう後の祭りよ? 女なんてヤッちゃえばこっちのもんなんだから」

「お前...最低だな...」

 俺は吐き捨てるようにそう言った。

「あら? 男なんて大なり小なりみんな心のどっかではそういう風に思ってんじゃないの? こんな商売してるとね、そういった男の感情がヒシヒシと伝わって来るもんなのよ?」

「とにかくダメだ! そんな卑劣な手を使ってアンリエットの体を奪ったとしたって心までは奪えない! お互いに空しくなるだけだ! 第一、俺はもうアンリエットの側に近寄ることも出来ない立場なんだぞ!? 屋敷に会いに行ったって門前払い食らうのが関の山だ!」

「それなら偶然を装おって、外出した所を待ち伏せとかすればいいじゃないの? ほら、使う使わないはともかく、取り敢えず持って行きなさいな?」

「だから要らないって言ってるだろう!」

 俺はマーガレットの手を振り払おうとしたのだが、その瞬間...

「ママ~!」

 またしてもマックスの泣き声が響いた。どうやらまた起こしてしまったらしい。

「あらあら~ マックス、何度もゴメンね~」

 マーガレットがマックスの部屋に向かって行く。俺はその隙に、

「と、とにかく俺はもう帰るからな!」

 そう言って別荘を後にした。

 その時、俺は全く気付いていなかった。マーガレットのヤツが俺の服のポケットに例の媚薬をコッソリ入れていたことに...
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