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 次の日、早速パトリックが我が家にやって来た。

「やぁ、アンリエット。この間は愚弟が迷惑を掛けて本当に申し訳なかった。今日は俺のプロポーズに対する返事を貰えると思っていいのかな?」

 私は答える代わりに無言のままアランの報告書をパトリックに放り投げた。慌てて受け取ったパトリックは、報告書の内容を見て忽ち顔面蒼白となった。

「これ、どういうこと?」

 私は氷点下を下回る冷たい口調でそう言った。

「こ、これはその...」

 まさかバレているとは夢にも思っていなかったのか、パトリックは完全に目が泳いでいる。

「舐めてんの?」

「い、いやいや、そんなことは決して無いんだ! 時期を見てちゃんと話そうとは思っていた! それだけは信じてくれ!」

「ちゃんと? どういう風に? いつ? 実は愛人が居て子供まで居るんだって結婚した後に言うつもりだったとか? ふっざけんなぁぁぁ!!!」

「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」

 私の剣幕にビビッたのかパトリックが震え上がる。

「女をバカにすんのもいい加減にしろ! とっとと帰りやがれ!」

 私はドアを指差して怒鳴り付けた。

「ま、待ってくれ! た、頼む! お、俺の話も聞いてくれ!」

 パトリックが土下座せんばかりに頼み込むので、聞きたくもなかったが仕方なく聞いてあげることにした。顎でしゃくって促す。

「か、彼女は、マーガレットは元娼婦なんだ...公に出来ない関係だから隠していた。それは謝る。本当に申し訳なかった。ただ俺とマーガレットの間には、既に俺の子供が居るんだ。まさかそれを放置することなんて出来る訳ないだろう? 男としてそんな最低なことをする訳にはいかないだろう? アンリエットならきっと分かって貰えると思っていた。だから結婚した後に愛人が居ること、子供が居ることを正直に話すつもりだった。これは本当だ! 信じてくれ! それに愛人を持つことなんて貴族としてのステータスの一つだろ? 良くあることじゃないか? そんなに目くじら立てなくてもいいだろ?」

「ナニソレ? 開き直ってんの? アンタ、何様のつもりよ? 王侯貴族にでもなったつもりなの? 今の御時世、愛人を持つことが許されるなんてせいぜい王族くらいよ? それにしたって余程の事情がない限り無理だわ。例えば妃に迎えた女性が不妊症だったとか、ちゃんとした理由がないといくら王族とはいっても後ろ指差されるわ。そういう時代なのよ。そんなことも知らないの? どこまで時代錯誤してんのよ? 田舎貴族風情にそんなことが許されるはずがないでしょうが!」

 パトリックは黙り込んでしまった。
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